ノート
※※※
side???
――街は今、選挙とかしてるらしい。
あの車マジうぜぇな。
部屋に居ても退屈だが、公共騒音も窮屈だった。
窓から外を見たら親戚のおじさんが見えた。
野菜を持ってきたらしい。
いままで来なかったくせに、最近は何故かおすそわけに来る。
時期も時期。
功名党の人の話を延々とするんだよな……
親戚はあの『美額学会』に居る。
そして功名党のバックが、あの学会らしい。
まったく……選挙ってみんな似たような気するし、よくわかんねえ。
玄関のコンクリートを、爪先でつつきながら靴を履く。
(『学会』とあの党と言えば、つい最近も立候補だなんだと騒いでいたりしたっけ?)
なんかよくわからん。
社会って苦手だな。
side スズシロ
あいつに一日会わないってだけで随分長く感じる。
ただでさえ最近まで避けてて、やっと関わってくれたばかりなのだ。
だけど気がかりなことがある。
俺が関わろうとするごとに、悪化しているのは気のせいか?
この前もなんだか不安定だったし、あまり俺の話を聞きたくなさそうだった。
気のせいだと思うが、理由はわからなかった。
「嫌われている?」
口に出した途端に変な笑いが出てしまった。
「まさかな……あいつ俺のこと好きだし」
だけど、じゃあなぜ、俺に顔を見せるたびに衰弱していくんだ?
もともと自由気ままなところはあったし、あいつはわかりにくいというか。
うーん、さっぱり理解出来ない。
放課後、暇だから久々に部屋にある本を読んだ。
あいつが散らかしていったりしててやっと整えた本棚。
まったく……
好きな相手じゃなきゃ怒っているだろうに、あれが普段の秋弥の自由なところだと思うとなんだかほほえましくもある。
「今日はどうしているかな」
もしかしたら家庭とかいろいろ大変だったらしいから、ストレスをためているだけだろう。
俺も力になってやらないと、と思ったが、いつも空回りし続けている気がした。
「……信頼されてないのかねえ」
あれが怖いよ、と言われたらそれに一緒に向き合ってやるし、あれが嫌だと言われたらそれを一緒に考えてやれるのに。
彼はそういうとき『怖い』『嫌だ』 だけしか言わない。
「言わなきゃわかんないっつの」
イライラしても仕方がない。
家に来たときの秋弥を思い出す。
今みたいに本を読んだりしてしばらく放置しているときとか。
俺が反応するまでこちょこちょしてみたり、いつのまにか俺の携帯からRPGを起動して、勇者の装備を全部バニースーツに着替えさせ、名前を『変態』に変えるなど謎ないたずらをしては遊んでいる彼。
俺がしょうがないなという顔をすると、楽しそうに笑う。
そうそう……ちょっとSなところもあって。
想像すると俺のなにかが瞬く間に元気を取り戻していた。
ズボンのチャックを下ろし、四つん這いになる。それから携帯にある秋弥の声をセットだ。
画面に触り、データBOXを出そうとしつつ自分も触る。
「んっ……あぁん」
あれ、押してないのに音声が開いた?
まあきっと数秒後には彼の声が流れ出す。
二つある小さな首をいじりながら気持ち悪い声を出す。
「んっ、んぁ……秋ぃっ、」
『もーしもーし?』
「やぁ、あん……」
気持ちいい。
『綺羅でーす』
え……。
画面は、通話画面を開いていた。
「う、わ……っ!」
『あのさー、秋君、どうしてるか知らない?』
綺羅ちゃんは特に触れず単刀直入。
確か隣のクラスの子で秋弥と同じ中学の……
「こほん。それが、俺にもわからない、なぜ俺の番号を」
極めて紳士的に返答する。
『あんたらと前に話した子から聞いたんです』
さよなら俺のプライバシー。まあ、この子はあまり言いふらさないかな。
「そう。秋弥はつい最近も会った。
少し体調が悪いみたいだから、行っても困るだけだと思う。
そっとしてやってくれないかな」
「そうしたいんだけど……鵜潮って子が居てね」
また新たなワードが増えた。
「彼、昔からなぜか秋君につきまとってて。それが秋君が好きな人を『奪った』からみたいだよ」
奪った……?
耳を疑う。
秋弥は、どちらかというと人と距離を置くタイプだ。奪うなんてことが出来るほどに恋愛なんか知らないだろう。
「私もなんか知らなーい。でもね、ずっと秋君を真似して自分もそうなろうとしてるみたい。
好きになって貰えるって思ってじゃない?
まぁ、周りからはそういうので、嫌われてるみたいだけど。
嫌がってても見えてないみたいで。秋弥になんか! っていつも言う子だったからね」
勘違いしている。
彼みたいなのなら誰でもいいだろうと好きな相手まで、自分以外を全て値踏みしてバカにしているみたいだ。
聞いていてもイライラした。
「そいつが、どうかしたのか?」
「アカウント作ってバカやってるみたい。
秋君の部屋の内装とかを真似た部屋の写真を紹介したり、俺が秋弥だ、とかわけわかんないこと言ってるし好きな相手は枕で落としてきたとか書いてる……」
あいつ、 どっちかというと 攻めの方が 好きそうだぞ。とは、さすがに俺は言わなかった。あれ絶対隠れSだ。
素直に枕になって相手の下につくなんて舌を噛み切るだろう。
「あり得ない、絶対あり得ないわ」
『それでね、私が聞きたいのは秋君が元気そうかってことと、あと、鵜潮があんなバカをやらかしてるんなら、秋君の部屋まで来ていたってことじゃない? なんかそういうのに執着されるとさ、不安だよね、今は平気なのかなと』
綺羅ちゃんは、正直いって、ただのちゃらんぽらんな不思議ちゃんかと思ってたんだ。
案外しっかりした子なんだと俺は密かに反省する。
「あぁ、あいつは元気。この前も会ったから。ただ、うーん、具合はほんとたまにしかよくならない見たいで。ちょっとぼーっとしているかな。
鵜潮の件は、今、聞いた。あいつ何も言わなかったし……」
「ハァ、結局、何も言えないような信頼なんだね」
グサッ。
心に刺が突き刺さる。
つかえねー、と言われてるようでさすがになぜ俺がそんなに呆れられてるのかわからない。
「『なんかあれば言え』と俺は何度も言いました」
「あんたってあれだよね、昔のドラマで見る、紙みたいなの渡して『此処に好きな金額を書きなさい』みたいなやつ」
「うっ」
「気にした? ごめーん。
でもね、秋君って異様にめんどくさがりだからさぁ。
考える必要があるときしか考えない子だと思うしー、そこは私と似てるんだけど、なんていうかなー。
あんたは、ただ、圧をかけただけだね」
グサッ。
「あ、圧って」
「別に、わざわざ言わなくたって出来ることはあると思うな。
いつも通りに接してほしそうならいつも通りにするとか、さ。追い詰めたってしょうがないでしょ」
「…………おう」
じゃあね、と、曖昧なことを言い残されて通話は終了し、俺は一人になった部屋でまた四つん這いになった。
side???
――街は今、選挙とかしてるらしい。
あの車マジうぜぇな。
部屋に居ても退屈だが、公共騒音も窮屈だった。
窓から外を見たら親戚のおじさんが見えた。
野菜を持ってきたらしい。
いままで来なかったくせに、最近は何故かおすそわけに来る。
時期も時期。
功名党の人の話を延々とするんだよな……
親戚はあの『美額学会』に居る。
そして功名党のバックが、あの学会らしい。
まったく……選挙ってみんな似たような気するし、よくわかんねえ。
玄関のコンクリートを、爪先でつつきながら靴を履く。
(『学会』とあの党と言えば、つい最近も立候補だなんだと騒いでいたりしたっけ?)
なんかよくわからん。
社会って苦手だな。
side スズシロ
あいつに一日会わないってだけで随分長く感じる。
ただでさえ最近まで避けてて、やっと関わってくれたばかりなのだ。
だけど気がかりなことがある。
俺が関わろうとするごとに、悪化しているのは気のせいか?
この前もなんだか不安定だったし、あまり俺の話を聞きたくなさそうだった。
気のせいだと思うが、理由はわからなかった。
「嫌われている?」
口に出した途端に変な笑いが出てしまった。
「まさかな……あいつ俺のこと好きだし」
だけど、じゃあなぜ、俺に顔を見せるたびに衰弱していくんだ?
もともと自由気ままなところはあったし、あいつはわかりにくいというか。
うーん、さっぱり理解出来ない。
放課後、暇だから久々に部屋にある本を読んだ。
あいつが散らかしていったりしててやっと整えた本棚。
まったく……
好きな相手じゃなきゃ怒っているだろうに、あれが普段の秋弥の自由なところだと思うとなんだかほほえましくもある。
「今日はどうしているかな」
もしかしたら家庭とかいろいろ大変だったらしいから、ストレスをためているだけだろう。
俺も力になってやらないと、と思ったが、いつも空回りし続けている気がした。
「……信頼されてないのかねえ」
あれが怖いよ、と言われたらそれに一緒に向き合ってやるし、あれが嫌だと言われたらそれを一緒に考えてやれるのに。
彼はそういうとき『怖い』『嫌だ』 だけしか言わない。
「言わなきゃわかんないっつの」
イライラしても仕方がない。
家に来たときの秋弥を思い出す。
今みたいに本を読んだりしてしばらく放置しているときとか。
俺が反応するまでこちょこちょしてみたり、いつのまにか俺の携帯からRPGを起動して、勇者の装備を全部バニースーツに着替えさせ、名前を『変態』に変えるなど謎ないたずらをしては遊んでいる彼。
俺がしょうがないなという顔をすると、楽しそうに笑う。
そうそう……ちょっとSなところもあって。
想像すると俺のなにかが瞬く間に元気を取り戻していた。
ズボンのチャックを下ろし、四つん這いになる。それから携帯にある秋弥の声をセットだ。
画面に触り、データBOXを出そうとしつつ自分も触る。
「んっ……あぁん」
あれ、押してないのに音声が開いた?
まあきっと数秒後には彼の声が流れ出す。
二つある小さな首をいじりながら気持ち悪い声を出す。
「んっ、んぁ……秋ぃっ、」
『もーしもーし?』
「やぁ、あん……」
気持ちいい。
『綺羅でーす』
え……。
画面は、通話画面を開いていた。
「う、わ……っ!」
『あのさー、秋君、どうしてるか知らない?』
綺羅ちゃんは特に触れず単刀直入。
確か隣のクラスの子で秋弥と同じ中学の……
「こほん。それが、俺にもわからない、なぜ俺の番号を」
極めて紳士的に返答する。
『あんたらと前に話した子から聞いたんです』
さよなら俺のプライバシー。まあ、この子はあまり言いふらさないかな。
「そう。秋弥はつい最近も会った。
少し体調が悪いみたいだから、行っても困るだけだと思う。
そっとしてやってくれないかな」
「そうしたいんだけど……鵜潮って子が居てね」
また新たなワードが増えた。
「彼、昔からなぜか秋君につきまとってて。それが秋君が好きな人を『奪った』からみたいだよ」
奪った……?
耳を疑う。
秋弥は、どちらかというと人と距離を置くタイプだ。奪うなんてことが出来るほどに恋愛なんか知らないだろう。
「私もなんか知らなーい。でもね、ずっと秋君を真似して自分もそうなろうとしてるみたい。
好きになって貰えるって思ってじゃない?
まぁ、周りからはそういうので、嫌われてるみたいだけど。
嫌がってても見えてないみたいで。秋弥になんか! っていつも言う子だったからね」
勘違いしている。
彼みたいなのなら誰でもいいだろうと好きな相手まで、自分以外を全て値踏みしてバカにしているみたいだ。
聞いていてもイライラした。
「そいつが、どうかしたのか?」
「アカウント作ってバカやってるみたい。
秋君の部屋の内装とかを真似た部屋の写真を紹介したり、俺が秋弥だ、とかわけわかんないこと言ってるし好きな相手は枕で落としてきたとか書いてる……」
あいつ、 どっちかというと 攻めの方が 好きそうだぞ。とは、さすがに俺は言わなかった。あれ絶対隠れSだ。
素直に枕になって相手の下につくなんて舌を噛み切るだろう。
「あり得ない、絶対あり得ないわ」
『それでね、私が聞きたいのは秋君が元気そうかってことと、あと、鵜潮があんなバカをやらかしてるんなら、秋君の部屋まで来ていたってことじゃない? なんかそういうのに執着されるとさ、不安だよね、今は平気なのかなと』
綺羅ちゃんは、正直いって、ただのちゃらんぽらんな不思議ちゃんかと思ってたんだ。
案外しっかりした子なんだと俺は密かに反省する。
「あぁ、あいつは元気。この前も会ったから。ただ、うーん、具合はほんとたまにしかよくならない見たいで。ちょっとぼーっとしているかな。
鵜潮の件は、今、聞いた。あいつ何も言わなかったし……」
「ハァ、結局、何も言えないような信頼なんだね」
グサッ。
心に刺が突き刺さる。
つかえねー、と言われてるようでさすがになぜ俺がそんなに呆れられてるのかわからない。
「『なんかあれば言え』と俺は何度も言いました」
「あんたってあれだよね、昔のドラマで見る、紙みたいなの渡して『此処に好きな金額を書きなさい』みたいなやつ」
「うっ」
「気にした? ごめーん。
でもね、秋君って異様にめんどくさがりだからさぁ。
考える必要があるときしか考えない子だと思うしー、そこは私と似てるんだけど、なんていうかなー。
あんたは、ただ、圧をかけただけだね」
グサッ。
「あ、圧って」
「別に、わざわざ言わなくたって出来ることはあると思うな。
いつも通りに接してほしそうならいつも通りにするとか、さ。追い詰めたってしょうがないでしょ」
「…………おう」
じゃあね、と、曖昧なことを言い残されて通話は終了し、俺は一人になった部屋でまた四つん這いになった。