ノート
「いたた……」
頬を擦ったボールに涙目になりながら見上げるとやたらと真っ黒い髪に紫の唇をした知らないやつ。
「誰だ」
「太田。ボールを投げ合えたらと思ったんだ」
知らないやつから話しかけられたのは、小林以来だ。小林って誰だっけ。
未だによくわかっていない。
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冷たいタイプの俺にキャッチボールだの言う意味がわからんというか誰だコイツ。
「昨日も、見てたよ」
俺は無視して携帯で空の写真を撮る。あ、よく撮れた。
最近、謎のハエみたいなのとよく上空で会うし、写真にうつるときがあるので(どうせヘリかなんかだが)それに会うのが日課みたいなもんだった。ただ、今日は会えなかったなあ。
「楽しかったね、買い物デート」
え?
いつデートしたの。
「そうなんだ」
よくわからない受け答えをしてしまった。
「俺、きみみたいなのと付き合えて、ラッキーっていうか」
俺、きみみたいなのを知らないっていうか。なんで、俺とキャッチボールしようとしたんだ。軽く頭がパニックになる。
「きみの写真のためのフィルムストックが今、なくっていて、
撮影が出来なくて悪いんだけどさ」
はぁはぁと息を吐きながらそいつは言った。
「我慢は身体に毒だから、とりだめする代わりに、こうして会いにきたんだ」
よし、関わってはならないと判断して、俺はささっと背を向けてあるく。変なやつだ。
あんな変なのが、俺を脅かしてたのかという妙な怒りもあった。
こいつは、なぜ、俺に構うんだ。