ノート
いつもみたいに図書館に入り浸っていると、お気に入りの席に、見慣れない男の子を見つけた。最初は邪魔だなと思っていたから声をかけようと思った。
 彼が読んでいる本は、どれも死後だとか、死体についてといったもので左腕には、新しくついたらしい切り傷が沢山ついていた。


死にたいのだろうか。
そうではなくとも生きるのが苦しいのかもしれない。

傷はそんなに深いものじゃないけれど、彼が壊れ始めたヒビのようなものなのか、はたまた衝動的なもの、どちらかによってそうしたんだと思う。

 繊細そうだから慎重に声をかける。
その本いいですよね、といった感じに。
実際、そういう本は僕もよく読んでいるから嘘でもない。

 小柄で可愛い顔の子。隣に座ればもしかしたらどこかにいってくれるかもしれないなという気持ちで座ってみた。

僕は一人が好きだ。
一人で考えている時間が好きなのだ。
けれど不思議と彼はどかなくて、そして僕と会話をする。
こんなことははじめて。

ミスをした。
彼の前で保険証を見せてしまったなんて。慌てて拾うと、僕より焦ったからなんだかおかしくなった。
きっと彼は、いい子だ。なのに、何かとても苦しいことを抱えている。

死ぬ予定かと聞くと、本当に死ぬ予定みたいだ。
初対面のはずなのに、こんなに警戒心がなくなった他人は、初めてだし、僕相手に死ぬ予定を話す彼も、なんだか滑稽で、愛しい。

 僕は、咄嗟に、もっと話をしたいと思って小芝居っぽく話してみた。
あんなに見ず知らずの僕に優しく接してくれた子は見たことがない。
 秋弥という名前らしい。彼のどこか寂しそうで、でも柔らかいような雰囲気と合っていると思う。
短くしていたのにしばらく放っていて伸び始めたような髪型が、小さな顔を隠すようでいて、その奥にある、意思のはっきりしたような瞳を大事に守っているみたいで。
 なんとなく彼から目が離せなかった。
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