ノート
出掛ける準備をしようと家に帰る。

部屋に行こうとして姉とすれ違った。

なにやら今からUSJに行くらしい。俺が固まっている横をすり抜けながら「あんたって負担かけるだけで、なーんにも、しないよね。

出来ないから周りにばかり世話をやかせるんだよ、あ、また部屋散らかってなぁい?」

とか、いろいろ言い、スマホを操作して外に出ていく。

薄々気が付いていたけれど河辺を、俺への劣等感に勝つための唯一の道に利用しているんだろう。 小、中、といじめられて俺を罵倒する生活をしていた姉にとっては、俺は格下であるべき存在なのだ。

だから、奪えるものはなんでも奪い、邪魔できることはなんでも邪魔するつもりなんじゃないか。
考えてみたけれどばかばかしいとあきれた。そんなことしたって過去が変わることはない。


まぁ、俺はどうせ。
こんな、今の体調で遊園地なんか行けるわけがないし、それどころか自分のことでいっぱいで、楽しむこともままならない。
羨ましいともいえなかった。

二階に上がると鞄を置いてから制服を脱いだ。聞いていないけれど私服の方がきっといいと思ったから着替えることにした。
 着替えながら壁にかけているカレンダーを見ると、しるしをつけたところ……買いたかった漫画の発売日が、もう1週間は過ぎている。

いつもすぐに買いに行っていたのに、今俺は本屋に行きたくない。
 図書館さえまずかったのだから、買い物に行くには体調がいいときにすべきだろうと判断した。
それに今は、用事が先じゃないか。適当なシャツを着てジーンズを履いて少し髪を撫で付ける。

しるしを見るとやっぱり気になって、少し未練がましく、誰かが買っといてくれねぇかな、なんて思ったりもした。
 知り合いに合うとおかしくなりそうで、
 家にいてもおかしくなりそうで、

これが孤独っていうのだろうか。

ふとそんなことを考えて、胸がしめつけられる。俺はどこにもいけない。どこへもいけないんだろうか。
「あ、お土産、何がいい?」

鞄を持って一階に降りると、台所にいる姉から聞かれた。
最近はよく河辺の家に入り浸っているらしく、よく、そこと、この家、交互にやって来る。

まぁ、そんなことはどうでもいいけれど。

「別にいらねぇよ」

ボールペンに可愛い絵がついたって結局はペンだし、キーホルダーだって別にほしくないと思った。そんなに憧れがあるわけではないし……

「お土産代なら気にしなくていいよ。母さんからちゃんともらってるし。
お金渡してくれるんなら、それ買う」

俺はなんだかため息をつきそうになった。
理由はわからないが、憂鬱だった。

「あの。そうまでして、高い土産なんか買ってきてくれなくたっていい。お金、もったいないでしょ」
「欲しいものあるでしょ? 無いなら、適当なのになっちゃうよ」

勝手にしろよと言いたいが、機嫌をそこねそうだ。
家族想いを演出しつつ、ショッピングの理由にするのに必要な流れなのかもしれない。
または、相手がそうだった場合時間が余るし。

姉のためだと思い、なんか食いもんでいいよと言った。
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