ノート
休んでる期間も、宿題は出さないと単位にならないからと、プリントとノートの課題が沢山あったのに、辛い、字なんか書きたくないとも言えないから書き続けるしかない。

 宿題をしなければと、落ち着いて改めてペンを握るのに、書くたびに、動悸がするようだ。

手あてをされてから、改めて机に向かった。
けど、そんな風なパニックな心境しかない。

「やすめよ、手も……あぶないし」

「だめ。遅れたら先生から、電話がきて、

『途絶えたらあなた幽霊ですよ、
成績とか強制的に見せびらかしますよ』って言われてるから」
休んでしまいたい。
なにもしたくない。

「うわ、櫻先生、鬼畜だろ。秋弥が居なかったら、個人的な情報を晒すってことか?」

休みたい。
今、こんな状態で書きさえしなければ、俺は少しは回復するのに。

「居ない、死んだって、広める準備して、るみたい」
学校は好きだし席くらい置いておいて欲しい気持ちがあった。
でも、それも取り上げますよと言われたら、休んでいられなかった。


 それから数日はつらい身体に鞭打つように、誰とも連絡をとらずにレポートを仕上げては、出しにいった。
担当の先生に郵送したけれど、何日しても返事がなくて、電話をかけた。
「もらってませんよ?」

先生からの答えは驚くものだった。

「あれは、笹見さんのでしょう」

「誰かと俺を、間違えてるんだと思います、確かに提出してます」

後ろの方からクスクスと女の人の笑い声がした。先生だろうか。
どうやら、ササミという人と俺を間違えているらしい。
なんだろう、聞いたことのある名前だったような……

間違いをたださなくちゃと思いつつ、時間はないので、もう一度とりかかった。

「ん……?」

いや、先生、あれは笹見さんのでしょって、言わなかった?
なんだ、この違和感。
必死に提出したら違うひとの名を呼ばれるなんてことがあるだろうか。

ふと、鵜潮が部屋にきたときを思い出す。

「そんときの筆箱をなぜ買った? 他にも沢山あったからな。わざわざあれにした理由は?」

そう聞くと鵜潮は黙った。オリジナルな感性だと、真似などないと言ったのに鵜潮は答えられなかった。

「あのさ、俺に似せたって俺にはならないから。なっちゃんも、そういうのわかると思う。
俺が、好きってことは、
俺自身が自分で築いていきた過程全てをひっくるめた今があって、だからその性格があるから言うんだ」と俺は言った。
あのノートもだからこそ、適当に他人の手で触れられたくなかった。

嫌な予感と、不安な気分が押し寄せてきて泣きたくなる。


嫌だ、嫌だ、俺は、ササミじゃない!
手羽先でもないし、物でもない。

俺とは、そいつは別の人物なんだ!

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