夕暮れ、人の消えたこの街で。
帰り道には、普段人通りの多い道もあったのだが、その日は誰ともすれ違わなかった。

俺はそのときは、少し不思議に思いながらも、あまり気には留めなかった。

「おかしい」。

そう思ったのは、帰宅してからだった。

家に帰っても、家族が1人も居ないのだ。

はじめは、出かけているだけだ、と思った。

しかし、車は駐車場にきちんと停められていたし、靴も全て揃っていた。

靴を履かずに出ていくなんて、有り得るはずがない。

俺は不思議に思ったが、あまり現実味を帯びていないこの出来事に、気を紛らわそうとテレビをつけた。

しかし、夕方のテレビは思いのほか、つまらないニュースや児童向けのアニメばかりで、気を紛らわすには足りなかった。

でも、今思えばそれは不幸中の幸いな出来事だった。
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