夕暮れ、人の消えたこの街で。
あの時、テレビを付けたものの、イマイチ集中出来ず、そこかしこに気が行っていた為、今助かったと言える。

ズズ…ズズズ……

ふと、何かを地面に擦るような、鈍い音が聞こえた。

なんだろう、と思い、テレビの音量を下げると、自分の頭上から聞こえてきていることが分かった。

おそらく2階の廊下からだろう。

一瞬、妹だろうか、と思ったが、よく考えれば、今家の中には俺一人のはずだ。

ではなんだ、怪奇現象でも起きたというのか。

それとも、人形がひとりでに動き出したか。

そんなホラー映画のようなこと、当時の俺には到底信じることが出来なかった。

しかし、なんとも言えないおぞましい空気と、出かけてもいないはずなのに、家族が1人も居ない家でたった1人だという不気味な環境に、とてもじゃないが冷静でいることは出来なかった。
< 6 / 8 >

この作品をシェア

pagetop