一縷
「君はいつも『帰る』だ」
前回しみじみ思ったけれど、本当に綺麗な顔立ちをしている。寝てても起きても格好良いなんて、羨ましい。
「一杯付き合ってくれ。勿論支払う、お礼も兼ねて」
「そんな、これで充分です」
出しっぱなしの諭吉さんを見せる。
「早くしまって」
苦笑しながら言われた。尤もな指示に、財布へと入れる。
「名前、教えて」
「……羽巣です」
男はスーツの内ポケットから固そうな小さな紙を出した。それが名刺だと、差し出されてから気付く。
「俺は絹笠」
よろしく、と掛けられた言葉より、その名前の隣に書かれた役職に目が留まる。