一縷
指先

週末、絹笠さんが連れて行ってくれたのは焼き肉じゃなかった。

高級がつく焼き肉だった。

高級だと自分で焼くことはないらしい。店員さんが焼いてくれたお肉を食べる。

コース料理で、わたしは初っ端から目を白黒させた。

……手持ちが、あるかどうか。いや最悪、カードで。

「羽巣さん」

呼びかけられ、顔を上げた。

「はい」
「デザート、何にする」
「あ……杏仁豆腐で」

かしこまりました、と店員さんがメニューを下げて去っていく。

半個室。生まれて初めてこんなお店に入った。

もうアラサーだというのに、まだ未体験のことがあるとは。

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