一縷
手で壁を作った。
自分が言われて嫌なことは、他人に言ってはいけないのだから。
「ブーメランって」
「返さないでください」
「羽巣さん、恋人は?」
指先を柔く握られ、壁が取り壊される。
「いや、だから返さないでください」
「もしかして既婚」
「未婚で独身で彼氏も彼女もいません」
「そうか、これをあげよう」
絹笠さんの前に置かれた杏仁豆腐を差し出された。
あ、憐れまれた……。でも杏仁豆腐は好きだから貰う。
一口掬って味わう。冷たくて甘くて美味しい。
温かいお茶も飲む。今日はお酒を飲んでいない。