一縷

「あの、何かありました?」

メッセージを無視しておいて何かあったのか、では無いだろうと、わたしなら思うけど。

『連絡が途絶えたから』
「……ですよね」
『今、大丈夫?』
「はい、大丈夫です」

昼下がり。きっと昼休憩なんだろう。あの時と同じような時間だ。
わたしは事務所を出て、裏口から路地裏に出る。

日陰は肌寒い。でも、日の当たる場所へ出ようとは思わなかった。

『羽巣さんの声が聴きたくて』

その言葉に、どきりとしてしまう。
うるさいぞ、心臓。

『仕事、忙しいのか?』
「……まあ、とても、はい」

< 53 / 88 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop