一縷

正直に答える。段差の元にしゃがんだ。

『返信できないくらいには』
「……ごめんなさい」
『いや、謝って欲しいわけじゃない。ただ、本当に声が聴きたくて』

何回も言わなくても分かるから。
脈打つ心臓を黙らせたくて、口を開く。

「そういえば、この前、絹笠さんのこと見かけましたよ」
『どこで』
「大通りの、交差点のところで」

わたしたちはお互い、全く交わらない横断歩道を渡っていた。

「隣にいた女性、綺麗な方でしたね。会社の方ですか?」
『ああ』
「お付き合いされないんですか?」
『……は?』

絶対零度の返事に、心臓がひやりとした。動悸は止まったけれど。

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