一縷

そもそも、と続けられた。心なしか、呆れているような。

『俺は君に告白していたはずで、まだその返事も聞いていない。あとあれは別部署の上司で俺の同期と結婚している。羽巣さんの話をしたらすごく笑っていた』
「え、わたしの、何の話を」
『羽巣さんが気にするのはそこじゃない』

断言され、黙る。勿論、ちゃんと前半も聞いていましたとも。

「……わたしは、無しの方向で、お願いします」

今ここで返事をするとは思わなかった。きっと絹笠さんも同じことを思っているだろう。

『無し、というのは』
「……わたしは彼女になりません」

きちんと言葉を返す。

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