一縷
絶句しているのか、言葉が返ってこない。
「あの、勿論焼肉のお金も返しますし、その前の居酒屋のお金だって」
『いや、いい』
「でも……」
『今日、仕事帰りに行く』
え、と声が出る。今日の帰りって、何時だ。ていうか、帰りに何故来るのか。
「羽巣ちゃん、三丁目の沢村さん来たよ」
富士さんが裏口から顔を出して知らせてくれた。顔を上げて、頷く。
『じゃあ、また』
「はい、失礼します」
通話を切り、中へと戻る。
「もしかして焼かない焼肉屋の人との電話?」
「……富士さんの観察眼をわたしにも分けてほしい」