一縷

世間話が普通にできるのも、懐かしいものを共有し合えるのも、絹笠さんがわたしに合わせてくれているからで。

スーツを着た絹笠さんと、その上司という女性が並んでいるのを見たとき、確信してしまった。
わたしと絹笠さんは、きっと交わらない世界にいるんだって。

「好きで合わせてるんだから、させとけば?」

思いもよらぬアドバイスに、口が半開きになる。

「それは、悪いじゃないですか」
「なんで?」
「なんでって……」

なんで?

それは、貰ったら返すのは普通でしょ。
返したいって、思うでしょ。

何でって。

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