一縷

確かに、それはそうだ。
わたしは、わたしだけで。
絹笠さんは、絹笠さんだけ。

「俺は羽巣さんを好きだから、羽巣さんを大事にしたいし、付き合いたいんだ。誰かと比べることはない。君だから可愛いと思うし、好きだと思う」

揺るがない言葉に、わたしは昼の富士さんとの会話を思い出す。

貰ったら、返したいと思うのは、そこに少なからず好意があるからだ。

わたしにも、返せるものかあれば。

「わたしは、絹笠さんのこと、好きですけど……その、絹笠さんに返せるほどの何かを持ってるわけじゃなくて……」

繋がれた手を見る。
あれ、いつの間にか繋がっていたんだろう。

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