一縷
しかし、赤の他人の家のシャワーなんて借りようとも思わない。
「風呂はどうする? 入るか?」
「いえ、入らないので……」
「とりあえず湯を張ってくる」
人の話を聞いて!?
ベッドを出て、部屋を出ていく背中を見る。
いや、もう今しかない。
ベッドをおりて、コートを引っ掴んだ。その下に鞄が置いてあり、持ち上げる。
中にスマホと財布が入っているのを確認して、わたしは静かに部屋を出た。
また広いリビングを通り、長い廊下へと進む。その側面に風呂場らしきところがあり、玄関が広がっていた。
わたしの靴はちょん、と並べられていた。