一縷

店員が良いのか? と俺と彼女の間で視線を彷徨わせ、ぺろりと一万円札をだした彼女を待たせるわけもいかず、会計が目の前で終わった。

俺もそれを見ていることしか出来ず、「ありがとうございましたー」と気づいたら背中に声を受けていた。

彼女はふわふわとした足取りでこちらを振り向くことなく、歩き出してしまう。

「あの、ちょっと待って。おろしてくるから」
「え? ああ、大丈夫ですよ、今日給料日なんです」

えへへ、と嬉しそうに笑っている。給料日を嬉しがる気持ちはわかるが、大丈夫な理由にはならない。

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