ラブ・サーガ!
あたしたちが今行こうとしているのは、ここバートランド王国があるフロタウス大陸の隣の大陸の国、ファッシ国。
きっかけは一枚の招待状だった。
ファッシ国の第一王子様の誕生日と成人を祝う舞踏会の招待状。
バートランドとファッシは、その昔はそこそこに交流があったらしいんだけど、二十年前にバートランドがモンスターの軍団に襲われ乗っ取られてから、当然その薄い国交は途絶えていた。
けれど逃げ延びていた王族の方々やそれを支える貴族の方々が成長して、七年前にバートランドを取り戻すためにモンスターに戦いを挑んだ。
その戦いが終わったのが、ちょうど今から五年前。あたしが姫さまに侍女として仕え始めたのもその時。
モンスターに荒らされた大地や町も、五年もあれば大分良くなる。
王族貴族平民、身分にかかわらず皆でちょっとずつ努力して、今では以前と変わらないくらい復興したんだ。
あたしは政治とかそういうのは全然分からないんだけど、それでも遠い国と外交を活発にするほどではなかったみたい。
でも今回の招待状を受けて、ファッシとの国交を結ぶための足掛かりにちょうど良いと思った……らしい。聞いた話だからよく分からないんだけど。
相手が指定されていなかったから本当は、陛下はジェレミー様に行ってもらおうと思ってたらしいんだけど、ジェレミー様が嫌がったのと、好奇心旺盛な姫さまが凄く行きたがってたから仕方なく姫さまに任せたみたい。
まぁ……あたしも人の事言えないんだけど、姫さま、やんごとなき身分の人にちゃんとした言葉遣い出来るか怪しいもんね。
それでも、ダンスも言葉遣いの練習もがんばった姫さま。エライ!
そんなこんなで、側近のみんなと一緒に一路ファッシ国へと旅立ったのである~!
えへへ、正直なところ、この大陸から出たことないからあたしもすっごく楽しみなんだよね。船にも乗るし。
ただ、陛下の結婚の儀が間近だから、ちょびっと滞在日帰りUターンなのがちょっと残念。
バートランド国の王城・グロウウィン城は、この大陸の周りをぐるっと囲む山脈の中腹を切り開いて建てられている。
あたしたちの乗った馬車は大きな正門を抜けてこの国の王都であり城下町、その名もグロウウィンへの山道に敷かれた石畳を走っていた。
山道に並行して流れる大きな川の音が聞こえる。この川は山頂から続いて大街道と並行し、この大陸の国々を通り抜け最後は海へとたどり着く。そうそう、この川の水を庭園の水路に利用してたりする。あと生活水ね。
歩いたらかなり時間のかかる山道も、コルトホースの馬車ならあっという間。
城下町の門を門番さんが開き、一同は城下町へ。
大通りをゆっくりと進む馬車に気がついた町民たちが、どんどん道の脇に鈴なりに立って手を振る。
それを見た姫さまが馬車の窓から見える様に手を振り返した。
でも姫さま、手を振るのがめちゃくちゃ早いから残像しか見えないね、もはや。手が空を切る音がすんごい怖い。
あーああ、あんまり姫さまが手を振るの早すぎて、大きく手を振って対抗してた男の子がひっくり返っちゃった。
でも男の子はすぐに立ち上がって、思わず窓から身を乗り出した姫さまに向けて元気に手を振る。
それを見て、笑ってゆっくり手を振る姫さまの、バイオレット王家独特の菫色の髪が揺れる。
その姫さまの豪快な笑顔は、肖像画で見るお父様の前国王陛下によく似ていた。
姫さまと陛下はお父様似なんだって。だからかな、お二人ともかなりの美女だけど、凛々しくてかっこいい。
特に陛下は男装がとっても似合いそう。陛下のそういう魅力に憧れる女性もいるほどだ。でも姫さまは、かっこいいんだけど男装は似合わないかな。
姫さまは三きょうだいだからして、もう一人きょうだいがいる。
そう、第二子で王子様のジェレミー様。
じゃ、ジェレミー様はお父様にそっくりなのかというと、これが違うのよね。
姫さまと陛下がお父様似なのに対して、ジェレミー様はお母様似。
いや、似てるってレベルじゃない。もう生き写しレベル。
いわゆる白皙の美貌ってやつ? あまりの美しさに『女神の化身』『女神の再来』と言われた、お母様の美貌を受け継いだジェレミー様の美しさはもうとんでもない。
『性別を超越した美しさ』『神々の祝福を受けた奇跡の存在』『あまりにも美しいので花も秒で隠れて月もダッシュで逃げるレベル』とか、その美しさにもうみんな大騒ぎよ。
お母様は性別問わず誰もが振り返る美しさだったと言われている。ジェレミー様は、一目見ただけで性別問わず誰もが感嘆の息を吐く美しさって感じかな。
要するにバイオレット三きょうだいは三人揃ってめちゃくちゃ美人なのよね。う~ん顔面格差~!
……でも、三人の中で姫さまだけ何故かツリ目なんだよね。
それも直近の親族の中でツリ目の人はいないんだ。不思議。
まあ、バイオレット家ってバートランド様から九百年続いてるから、その長い歴史の中でツリ目の人も百人や二百人くらい、いるよね。きっとあれだ、隔世遺伝ってやつ。
王都グロウウィンを通りぬけたあたし達一行。
石畳が敷かれた大きな街道をあたし達の乗った馬車がひた走る。すぐそばを流れる大きな川の川面が、陽の光を反射してキラキラと光って眩しい。
この大陸はモンスターがたくさんいるけど、この大街道付近はジェレミー様が巨大結界を張ったおかげであまりモンスターは寄り付かない。枝分かれした普通の街道とか裏道とかは別だけど。
これから、このバートランドを西に向けて移動し、隣国のセルマ国で隣国の王子様と合流。更にセルマ国内を数日かけて通過し、セルマの隣国・マイルズ国でそこの王女様と合流し、マイルズ国王室が用意してくれる船に乗って遠く離れた隣の大陸、マーセン大陸の最東端に位置する、ファッシ国へと向かう。モンスターとか出ずに順調にいけば、十日くらいでファッシ国に着くらしい。
窓の外は眩しいくらいの晴天。気温も変化なく、いつも通りの快適な温度。
絶好の旅日和だ!
国内の領主様のお城に泊まりながら快適な馬車の旅を続ける事三日、国境を通り抜けて隣国のセルマ国国境の街、ロックフォールへとたどり着いた。
ロックフォールは堅牢な石造りの家が立ち並ぶ大きな街。木造の家が多い作りやすさ重視のバートランドに対して、セルマはこういう石造りの家が多い。
ロックフォールを通り過ぎて少し行った所に、このあたり一帯を治める領主様のお城がある。
そこに、今回同行する待ち人がいた。
「お前さあ……!」
セルマ国国境一帯を治めるオーデン侯爵様のお城前の広場にに姫さまの声が響き渡る。
言われた当の本人はニコニコ笑っている。場所を提供しているオーデン侯爵様はめっちゃオロオロしてる。
うんカオス~。
「なんでお前デニス殿しか連れてこないの⁉ バカなの⁉」
「なんでって……、必要性を感じなかったから?」
「バカなの⁉」
「まあまあ。何かあったら君が守ってくれるでしょ?」
「バカだこいつは‼」
姫さまに怒涛のツッコミを入れられているこの方は、このセルマ国の王子様。
シミオン・セルマ・ティリット様だ。姫さまとは幼馴染で親友なんだ。
ふわふわした淡い金髪に睫毛ばさばさの大きな目。瞳は透明度の高い宝石のようなピンク色。抜けるような白い肌に、ふっくらとしたバラ色の頬が印象的。
その整った容姿はまるで絵画でよく見る、神々の御使いと言われる『天使』のようだ。
温厚な性格と、ぽっちゃりとした体型も相まって……。
うん、そうなの。
シミオン王子って、大分ふっくらとした体型をしていらっしゃる。背も姫さまより若干高いかな? くらい。
でもそれがまた、愛らしさを引き立たせてる。
ちなみに、デニス殿っていうのはシミオン王子のお付きのぷるぷる気味のおじいさん。ヘイデン様と仲が良くて、ほら、今も仲良く世間話してる。
う~んでも、姫さまがツッコミ入れるのも分かる。
セルマ国もファッシ国とさほど国交がないらしい。それなのに、一緒に行くのがお付きのおじいさん一人ってのもね、なんか不用心な気がする。道中には大したことないモンスターしかいないけど、モンスターの心なんて分からないから、ひょっとしたらAランクモンスターの群れに遭遇するかもしれないじゃん? それにうちの大陸の国はもれなくあっちの大陸の人に恐れられてるから、ひょっとしたら攻撃されるかもしれないし。大勢の兵士さんをぞろぞろってのもアレだから、うちも騎士様二人と侍女一人の少数精鋭だけど、非戦闘員一人はちょっと、ねぇ。
その一方でシミオン王子が言う事も分かる。確かに、どんなモンスターに襲われても姫さまならなんとか出来るから、もう姫さまだけでよくない? とはたまに思う。シミオン王子自身もいるしね。
「ほら、早く行こう、ティナ。予定がどんどん遅れちゃうよ」
「納得いかんわぁ……」
ぶちぶち文句を言っていた姫さまだったが、シミオン王子に背中を押されて諦めて馬車に乗り込んだ。あたしも急いで乗り込む。
しばらくして、馬車は再び動き出した。
次の目的地はここセルマ王国の隣国、マイルズ王国だ!
セルマ国はバートランドと同じくらいの規模の国土だけど、自然の少ないバートランドと違って緑豊かな国だ。
青々とした葉を茂らせた樹がそばに立ち並ぶ大街道を、今度は三台の馬車が行く。
シミオン王子の馬車は一台だけだけど、あたしたちが乗る馬車よりもずっと大きい。
三頭のコルトホースが足並みをそろえて馬車を引く姿はとても優美だ。
そうそう、セルマ国もバートランドと同じで、建国したときにご先祖様の『九百年前の英雄、騎士セルマ・ティリット』様から名前を取ってるの。
途中モンスターに襲われたりしながらセルマ国を三日かけて抜けた馬車は、陽もそろそろ落ちかけた頃に最後の同行者が待つ、マイルズ国の王都チェノウェスへと到着した。
燃える夕日を受けて、白亜の王城がオレンジ色に染まっている。
何度見てもため息が出るほど綺麗だ。
王城前の広場に止まった馬車を降りる。王城の扉の前に、二人の女性と一台の立派な馬車が立っていた。馬車を曳くのはもちろんコルトホースだ。
「遅かったじゃないか」
一人の女性がこちらに歩み寄る。
夕日を浴びてキラキラと輝く長い銀髪。意志の強さを感じるスカーレットの瞳。ちょっと気の強そうな美しい顔立ち。滑らかな褐色の肌。
背筋をまっすぐ伸ばして歩く姿は凛と咲く一凛の花のよう。
姫さまとシミオン王子の幼馴染にして親友、アイリーン・マイルズ・キングストン王女だ。
「いやぁ、途中でモンスターの群れに襲われてね」
「しかもシミオンは笑って逃げてばっかりいた。なんなのお前?」
「君がいつもあっという間に倒してくれるからね。いつもありがとう」
シミオン王子の膝をげしげし蹴る姫さまと、くねくね身をよじらせて避けようとするシミオン王子。
いつもの二人のじゃれあいを楽しそうに見るアイリーン王女。
いや~、幼馴染とか同世代の友達っていいよね。
あたしはちょっと特殊な事情があって、そういう人がいないから憧れる。エリン様とレイチェル様は良い人達だけど、先輩だし身分も違うからそう言っていいかは……分からないし。あのお二人は喜んでくれそうな気もするけど。
幼馴染に近い奴はいるっちゃいるんだけど……ね……。
しばらくわちゃわちゃ久しぶりの再会を楽しんでいたロイヤル幼馴染組だけど、姫さまが唐突にアイリーン王女に聞いた。
「ところでアイリーン、お前、メリンダさん以外のお付きの人は?」
メリンダさんというのは、アイリーン王女の後ろに控えている侍女の人だ。メリンダさんも当然身分が高い人なんだけど、あたしと気さくに話してくれる良い人。あ、目が合った。お互い微笑んで会釈をした。
尋ねられたアイリーン王女。ふっ、と笑って姫さまの後ろに控えていたアーサー様に近づき、その腕にするりと自分の腕を絡めた。
「ここにいるだろう。何よりティナ、君とシミオンがいるじゃないか」
見事なドヤ顔。姫さまが良くやるわ、その顔。やっぱり親友は違うわ。
「なんなのお前ら! 自分の護衛は自前で用意しろ‼ 人に頼るな‼」
照れながら頭を掻くアーサー様。それを見て感慨深げに頷くヘイデン様。朗らかに笑うシミオン王子とデニスさん。傍観するあたしとメリンダさん。
四面楚歌だなぁ、姫さま。
でも今回は……しかたないかな。いや本当は仕方なくないんだけど。
なんと、アーサー様とアイリーン王女って婚約してるのよね。だから、アーサー様は姫さまの騎士なんだけど、アイリーン王女の事も守りたいんじゃないかな。
なんとなく今回はこうなるんじゃないかって予想はついてた。
「ほら、早く行くぞ。君たちが予定より遅かったからな、ぐずぐずしていると真夜中になってしまう」
「そうだね。ほらティナ、歩いて歩いて」
「なんなのお前ら…………」
アイリーン王女に背中を押され、シミオン王子に急かされて、姫さまがぼやきながら馬車に乗り込む。
あたしも続いて乗り込んで、振り向いたらアイリーン王女も乗ってきた。
びっくりして目を丸くするあたしの目の前で、アイリーン王女が姫さまの隣に収まった。
「いやいやいやいや、お前はお前の馬車に乗れ!」
腕組して目を閉じていたアイリーン王女。片目をちらりと開けて笑った。
「ふふん。気がついていなかったのか? ティナ」
「あ? 何にだよ」
「馬車を一台しか用意していなかった事にだ。あれは荷を積んだ馬車だ。座るところなどない。それに安全を考えるならここに乗るのが妥当だ」
ちょっとおかしいなって思ったけど、最初っからこれに乗る気だったんかーい。
当然、秒で姫さまがツッコんだ。
「降りろ! アーサーの隣に行け! それかシミオンの所に行け!」
「いくら婚約者とはいえ、君は一国の姫君を御者台に座らせる気か? それにシミオンとは……、いいかティナ。婚約している者を他の男と一緒にするのは感心しないな」
「マジでなんなのお前は」
めっちゃドヤるじゃんアイリーン王女。
どうしたものかと思ってふと顔を上げると、御者台に通じる小窓からヘイデン様がこっちを見てゆっくりと頷いた。
あ~なるほど……。分かりました~。
頷き返すと、漫才をしてるプリンセス二人を横目に見ながら馬車の扉を閉めた。
「時間がないので出発しま~す」
「うん、ナイスだリタ」
「は⁉ちょ、待てぇぇぇぇぇい‼」
姫さまの雄叫びを無情に無視し、山の端を燃やす夕日に染まる白亜の城を背に、四台の馬車は滑らかに走り出した。
ま、姫さまは友達思いだから、なんだかんだツッコミ入れながら許してたしね。
え? なんで姫さまがシミオン王子とアイリーン王女に『ティナ』って呼ばれてるかって?いい事聞くね。
話せばちょっと長くなるんだけど。
我がバートランド国には、生まれた子供にその年に生まれた王族の名前をあやかってつける風習がある。
例えば、アレクサンドラ陛下が生まれた年はアレクサンなんたらさんがたくさんいる。アーサー様のお兄様のアークライト家現当主様もアレクサンダーさんだ。青騎士団にはアレクサンジェロさんが三十人いるっていうし。
姫さまが生まれた年も、陛下の時とは比べ物にならないくらい少ないけど、ベアトリスと名付けられた子がちらほらいた。ほら、あたしの先輩侍女の一人、エリン様いたでしょ? エリン様のフルネームは、ベアトリス・エリン・グレイヴズ。そう、量産ベアトリスちゃんの一人だ。姫さまにお仕えしてからミドルネームで呼ばれるようになったそうだ。
同じ名前がたくさんいるから、バイオレット王族は代々ミドルネームをつけてる。だって、人前で名前を呼ぼうものなら、呼ばれた人以外の人も振り向いちゃうからね。姫さまとエリン様が一緒にいる時に「ベアトリス様ー!」って呼んだらきっと同時に反応する。
そんな訳で親友のお二人は、姫さまをティナって呼ぶようになった。うちの国の従者の人達や騎士様達が「姫さま」って呼ぶのも同じ理由。デニスさんをはじめとした他国の従者さんはさすがにファーストネームで呼ぶけど。
ごきょうだいのお二人? あのお二人はさすがにミドルネームでは呼ばないよ。姫さまの愛称の「ビー」って呼んでる。さすがにうちの王城にいる人たちは、陛下とジェレミー様のお声を忘れたりしないからね。お二人が呼べば声で分かるから、名前で呼んでも姫さま以外反応したりしないよ。
まとめると姫さまは、ご家族からは「ビー」、親友のお二人からは「ティナ」って呼ばれてます。
こうしてマイルズの王都チェノウェスから出発して予定通りに最寄りのマイルズ領領主様のお城にお泊り。
そして今は大街道を三度ひた走っている。
マイルズ王国は、この大陸の国で唯一海に面した国。
だからなのか、大街道を走っていると、旅行者と思しき人や冒険者らしき団体とちらほらすれ違う。
冒険者っていうのは、その名の通り世界各地を冒険する人達のこと。
この世界には、謎の遺跡や洞窟――通称、ダンジョンと呼ばれる場所がたくさん存在している。そういう場所に赴いて、遥か昔に滅びた種族や文明が残したお宝をゲットしたりしてるらしい。あと、お宝がある場所とかその道中には手強いモンスターがたくさんいるから、ピンキリだけど冒険者は大体モンスターと戦い慣れしてる。だから、モンスターを倒すこと自体を生業にしてる冒険者もいる。モンスターから採れる素材にも、貴重で高値で売れるもあるからね。自警団や国の騎士団が間に合わずモンスターに襲われた村を助けたりして、冒険者って結構ありがたい存在でもある。辺鄙な場所にある村の宿屋とか商店とかも、近くに古い洞窟の一つもあれば冒険者が来て泊ってくれたりお店を利用してくれたりとかね。ただまぁ、中には困った冒険者もいるんだけど。
この大陸は前人未踏のダンジョンがたくさんあって冒険者人気も高いんだけど、他の大陸出身の冒険者が入れるのはこのマイルズ国まで。なんせこのフロタウス大陸は九百年前に魔王が拠点にしてた影響で、他の大陸とは比較にならない強力なモンスターがゴロゴロいる。バートランドなんて魔王の居城があった場所だからね。そう、グロウウィン城。あれはその昔魔王が倒された後、時間をかけて人が住めるように改造された、元魔王城なんだ。それでなんか、まだバートランドには強すぎるモンスターがたくさんいるんだって。
ようするに、他の大陸とモンスターのランクが違いすぎるから、そこから来た人達にはまずテストを受けさせて、合格したら、まだ友好性モンスターが多くてランクが低いマイルズまで入国可にしてる。それでも、自信過剰で大分背伸びした冒険者達がモンスターに全滅させられてしまったり、大怪我をしてマイルズの騎士団に助けられたりといった事が多い。
それでもこのマイルズに来る冒険者が後を絶たないのは、冒険のロマンがそうさせるんだろうな。ちょっと分かる。
きっかけは一枚の招待状だった。
ファッシ国の第一王子様の誕生日と成人を祝う舞踏会の招待状。
バートランドとファッシは、その昔はそこそこに交流があったらしいんだけど、二十年前にバートランドがモンスターの軍団に襲われ乗っ取られてから、当然その薄い国交は途絶えていた。
けれど逃げ延びていた王族の方々やそれを支える貴族の方々が成長して、七年前にバートランドを取り戻すためにモンスターに戦いを挑んだ。
その戦いが終わったのが、ちょうど今から五年前。あたしが姫さまに侍女として仕え始めたのもその時。
モンスターに荒らされた大地や町も、五年もあれば大分良くなる。
王族貴族平民、身分にかかわらず皆でちょっとずつ努力して、今では以前と変わらないくらい復興したんだ。
あたしは政治とかそういうのは全然分からないんだけど、それでも遠い国と外交を活発にするほどではなかったみたい。
でも今回の招待状を受けて、ファッシとの国交を結ぶための足掛かりにちょうど良いと思った……らしい。聞いた話だからよく分からないんだけど。
相手が指定されていなかったから本当は、陛下はジェレミー様に行ってもらおうと思ってたらしいんだけど、ジェレミー様が嫌がったのと、好奇心旺盛な姫さまが凄く行きたがってたから仕方なく姫さまに任せたみたい。
まぁ……あたしも人の事言えないんだけど、姫さま、やんごとなき身分の人にちゃんとした言葉遣い出来るか怪しいもんね。
それでも、ダンスも言葉遣いの練習もがんばった姫さま。エライ!
そんなこんなで、側近のみんなと一緒に一路ファッシ国へと旅立ったのである~!
えへへ、正直なところ、この大陸から出たことないからあたしもすっごく楽しみなんだよね。船にも乗るし。
ただ、陛下の結婚の儀が間近だから、ちょびっと滞在日帰りUターンなのがちょっと残念。
バートランド国の王城・グロウウィン城は、この大陸の周りをぐるっと囲む山脈の中腹を切り開いて建てられている。
あたしたちの乗った馬車は大きな正門を抜けてこの国の王都であり城下町、その名もグロウウィンへの山道に敷かれた石畳を走っていた。
山道に並行して流れる大きな川の音が聞こえる。この川は山頂から続いて大街道と並行し、この大陸の国々を通り抜け最後は海へとたどり着く。そうそう、この川の水を庭園の水路に利用してたりする。あと生活水ね。
歩いたらかなり時間のかかる山道も、コルトホースの馬車ならあっという間。
城下町の門を門番さんが開き、一同は城下町へ。
大通りをゆっくりと進む馬車に気がついた町民たちが、どんどん道の脇に鈴なりに立って手を振る。
それを見た姫さまが馬車の窓から見える様に手を振り返した。
でも姫さま、手を振るのがめちゃくちゃ早いから残像しか見えないね、もはや。手が空を切る音がすんごい怖い。
あーああ、あんまり姫さまが手を振るの早すぎて、大きく手を振って対抗してた男の子がひっくり返っちゃった。
でも男の子はすぐに立ち上がって、思わず窓から身を乗り出した姫さまに向けて元気に手を振る。
それを見て、笑ってゆっくり手を振る姫さまの、バイオレット王家独特の菫色の髪が揺れる。
その姫さまの豪快な笑顔は、肖像画で見るお父様の前国王陛下によく似ていた。
姫さまと陛下はお父様似なんだって。だからかな、お二人ともかなりの美女だけど、凛々しくてかっこいい。
特に陛下は男装がとっても似合いそう。陛下のそういう魅力に憧れる女性もいるほどだ。でも姫さまは、かっこいいんだけど男装は似合わないかな。
姫さまは三きょうだいだからして、もう一人きょうだいがいる。
そう、第二子で王子様のジェレミー様。
じゃ、ジェレミー様はお父様にそっくりなのかというと、これが違うのよね。
姫さまと陛下がお父様似なのに対して、ジェレミー様はお母様似。
いや、似てるってレベルじゃない。もう生き写しレベル。
いわゆる白皙の美貌ってやつ? あまりの美しさに『女神の化身』『女神の再来』と言われた、お母様の美貌を受け継いだジェレミー様の美しさはもうとんでもない。
『性別を超越した美しさ』『神々の祝福を受けた奇跡の存在』『あまりにも美しいので花も秒で隠れて月もダッシュで逃げるレベル』とか、その美しさにもうみんな大騒ぎよ。
お母様は性別問わず誰もが振り返る美しさだったと言われている。ジェレミー様は、一目見ただけで性別問わず誰もが感嘆の息を吐く美しさって感じかな。
要するにバイオレット三きょうだいは三人揃ってめちゃくちゃ美人なのよね。う~ん顔面格差~!
……でも、三人の中で姫さまだけ何故かツリ目なんだよね。
それも直近の親族の中でツリ目の人はいないんだ。不思議。
まあ、バイオレット家ってバートランド様から九百年続いてるから、その長い歴史の中でツリ目の人も百人や二百人くらい、いるよね。きっとあれだ、隔世遺伝ってやつ。
王都グロウウィンを通りぬけたあたし達一行。
石畳が敷かれた大きな街道をあたし達の乗った馬車がひた走る。すぐそばを流れる大きな川の川面が、陽の光を反射してキラキラと光って眩しい。
この大陸はモンスターがたくさんいるけど、この大街道付近はジェレミー様が巨大結界を張ったおかげであまりモンスターは寄り付かない。枝分かれした普通の街道とか裏道とかは別だけど。
これから、このバートランドを西に向けて移動し、隣国のセルマ国で隣国の王子様と合流。更にセルマ国内を数日かけて通過し、セルマの隣国・マイルズ国でそこの王女様と合流し、マイルズ国王室が用意してくれる船に乗って遠く離れた隣の大陸、マーセン大陸の最東端に位置する、ファッシ国へと向かう。モンスターとか出ずに順調にいけば、十日くらいでファッシ国に着くらしい。
窓の外は眩しいくらいの晴天。気温も変化なく、いつも通りの快適な温度。
絶好の旅日和だ!
国内の領主様のお城に泊まりながら快適な馬車の旅を続ける事三日、国境を通り抜けて隣国のセルマ国国境の街、ロックフォールへとたどり着いた。
ロックフォールは堅牢な石造りの家が立ち並ぶ大きな街。木造の家が多い作りやすさ重視のバートランドに対して、セルマはこういう石造りの家が多い。
ロックフォールを通り過ぎて少し行った所に、このあたり一帯を治める領主様のお城がある。
そこに、今回同行する待ち人がいた。
「お前さあ……!」
セルマ国国境一帯を治めるオーデン侯爵様のお城前の広場にに姫さまの声が響き渡る。
言われた当の本人はニコニコ笑っている。場所を提供しているオーデン侯爵様はめっちゃオロオロしてる。
うんカオス~。
「なんでお前デニス殿しか連れてこないの⁉ バカなの⁉」
「なんでって……、必要性を感じなかったから?」
「バカなの⁉」
「まあまあ。何かあったら君が守ってくれるでしょ?」
「バカだこいつは‼」
姫さまに怒涛のツッコミを入れられているこの方は、このセルマ国の王子様。
シミオン・セルマ・ティリット様だ。姫さまとは幼馴染で親友なんだ。
ふわふわした淡い金髪に睫毛ばさばさの大きな目。瞳は透明度の高い宝石のようなピンク色。抜けるような白い肌に、ふっくらとしたバラ色の頬が印象的。
その整った容姿はまるで絵画でよく見る、神々の御使いと言われる『天使』のようだ。
温厚な性格と、ぽっちゃりとした体型も相まって……。
うん、そうなの。
シミオン王子って、大分ふっくらとした体型をしていらっしゃる。背も姫さまより若干高いかな? くらい。
でもそれがまた、愛らしさを引き立たせてる。
ちなみに、デニス殿っていうのはシミオン王子のお付きのぷるぷる気味のおじいさん。ヘイデン様と仲が良くて、ほら、今も仲良く世間話してる。
う~んでも、姫さまがツッコミ入れるのも分かる。
セルマ国もファッシ国とさほど国交がないらしい。それなのに、一緒に行くのがお付きのおじいさん一人ってのもね、なんか不用心な気がする。道中には大したことないモンスターしかいないけど、モンスターの心なんて分からないから、ひょっとしたらAランクモンスターの群れに遭遇するかもしれないじゃん? それにうちの大陸の国はもれなくあっちの大陸の人に恐れられてるから、ひょっとしたら攻撃されるかもしれないし。大勢の兵士さんをぞろぞろってのもアレだから、うちも騎士様二人と侍女一人の少数精鋭だけど、非戦闘員一人はちょっと、ねぇ。
その一方でシミオン王子が言う事も分かる。確かに、どんなモンスターに襲われても姫さまならなんとか出来るから、もう姫さまだけでよくない? とはたまに思う。シミオン王子自身もいるしね。
「ほら、早く行こう、ティナ。予定がどんどん遅れちゃうよ」
「納得いかんわぁ……」
ぶちぶち文句を言っていた姫さまだったが、シミオン王子に背中を押されて諦めて馬車に乗り込んだ。あたしも急いで乗り込む。
しばらくして、馬車は再び動き出した。
次の目的地はここセルマ王国の隣国、マイルズ王国だ!
セルマ国はバートランドと同じくらいの規模の国土だけど、自然の少ないバートランドと違って緑豊かな国だ。
青々とした葉を茂らせた樹がそばに立ち並ぶ大街道を、今度は三台の馬車が行く。
シミオン王子の馬車は一台だけだけど、あたしたちが乗る馬車よりもずっと大きい。
三頭のコルトホースが足並みをそろえて馬車を引く姿はとても優美だ。
そうそう、セルマ国もバートランドと同じで、建国したときにご先祖様の『九百年前の英雄、騎士セルマ・ティリット』様から名前を取ってるの。
途中モンスターに襲われたりしながらセルマ国を三日かけて抜けた馬車は、陽もそろそろ落ちかけた頃に最後の同行者が待つ、マイルズ国の王都チェノウェスへと到着した。
燃える夕日を受けて、白亜の王城がオレンジ色に染まっている。
何度見てもため息が出るほど綺麗だ。
王城前の広場に止まった馬車を降りる。王城の扉の前に、二人の女性と一台の立派な馬車が立っていた。馬車を曳くのはもちろんコルトホースだ。
「遅かったじゃないか」
一人の女性がこちらに歩み寄る。
夕日を浴びてキラキラと輝く長い銀髪。意志の強さを感じるスカーレットの瞳。ちょっと気の強そうな美しい顔立ち。滑らかな褐色の肌。
背筋をまっすぐ伸ばして歩く姿は凛と咲く一凛の花のよう。
姫さまとシミオン王子の幼馴染にして親友、アイリーン・マイルズ・キングストン王女だ。
「いやぁ、途中でモンスターの群れに襲われてね」
「しかもシミオンは笑って逃げてばっかりいた。なんなのお前?」
「君がいつもあっという間に倒してくれるからね。いつもありがとう」
シミオン王子の膝をげしげし蹴る姫さまと、くねくね身をよじらせて避けようとするシミオン王子。
いつもの二人のじゃれあいを楽しそうに見るアイリーン王女。
いや~、幼馴染とか同世代の友達っていいよね。
あたしはちょっと特殊な事情があって、そういう人がいないから憧れる。エリン様とレイチェル様は良い人達だけど、先輩だし身分も違うからそう言っていいかは……分からないし。あのお二人は喜んでくれそうな気もするけど。
幼馴染に近い奴はいるっちゃいるんだけど……ね……。
しばらくわちゃわちゃ久しぶりの再会を楽しんでいたロイヤル幼馴染組だけど、姫さまが唐突にアイリーン王女に聞いた。
「ところでアイリーン、お前、メリンダさん以外のお付きの人は?」
メリンダさんというのは、アイリーン王女の後ろに控えている侍女の人だ。メリンダさんも当然身分が高い人なんだけど、あたしと気さくに話してくれる良い人。あ、目が合った。お互い微笑んで会釈をした。
尋ねられたアイリーン王女。ふっ、と笑って姫さまの後ろに控えていたアーサー様に近づき、その腕にするりと自分の腕を絡めた。
「ここにいるだろう。何よりティナ、君とシミオンがいるじゃないか」
見事なドヤ顔。姫さまが良くやるわ、その顔。やっぱり親友は違うわ。
「なんなのお前ら! 自分の護衛は自前で用意しろ‼ 人に頼るな‼」
照れながら頭を掻くアーサー様。それを見て感慨深げに頷くヘイデン様。朗らかに笑うシミオン王子とデニスさん。傍観するあたしとメリンダさん。
四面楚歌だなぁ、姫さま。
でも今回は……しかたないかな。いや本当は仕方なくないんだけど。
なんと、アーサー様とアイリーン王女って婚約してるのよね。だから、アーサー様は姫さまの騎士なんだけど、アイリーン王女の事も守りたいんじゃないかな。
なんとなく今回はこうなるんじゃないかって予想はついてた。
「ほら、早く行くぞ。君たちが予定より遅かったからな、ぐずぐずしていると真夜中になってしまう」
「そうだね。ほらティナ、歩いて歩いて」
「なんなのお前ら…………」
アイリーン王女に背中を押され、シミオン王子に急かされて、姫さまがぼやきながら馬車に乗り込む。
あたしも続いて乗り込んで、振り向いたらアイリーン王女も乗ってきた。
びっくりして目を丸くするあたしの目の前で、アイリーン王女が姫さまの隣に収まった。
「いやいやいやいや、お前はお前の馬車に乗れ!」
腕組して目を閉じていたアイリーン王女。片目をちらりと開けて笑った。
「ふふん。気がついていなかったのか? ティナ」
「あ? 何にだよ」
「馬車を一台しか用意していなかった事にだ。あれは荷を積んだ馬車だ。座るところなどない。それに安全を考えるならここに乗るのが妥当だ」
ちょっとおかしいなって思ったけど、最初っからこれに乗る気だったんかーい。
当然、秒で姫さまがツッコんだ。
「降りろ! アーサーの隣に行け! それかシミオンの所に行け!」
「いくら婚約者とはいえ、君は一国の姫君を御者台に座らせる気か? それにシミオンとは……、いいかティナ。婚約している者を他の男と一緒にするのは感心しないな」
「マジでなんなのお前は」
めっちゃドヤるじゃんアイリーン王女。
どうしたものかと思ってふと顔を上げると、御者台に通じる小窓からヘイデン様がこっちを見てゆっくりと頷いた。
あ~なるほど……。分かりました~。
頷き返すと、漫才をしてるプリンセス二人を横目に見ながら馬車の扉を閉めた。
「時間がないので出発しま~す」
「うん、ナイスだリタ」
「は⁉ちょ、待てぇぇぇぇぇい‼」
姫さまの雄叫びを無情に無視し、山の端を燃やす夕日に染まる白亜の城を背に、四台の馬車は滑らかに走り出した。
ま、姫さまは友達思いだから、なんだかんだツッコミ入れながら許してたしね。
え? なんで姫さまがシミオン王子とアイリーン王女に『ティナ』って呼ばれてるかって?いい事聞くね。
話せばちょっと長くなるんだけど。
我がバートランド国には、生まれた子供にその年に生まれた王族の名前をあやかってつける風習がある。
例えば、アレクサンドラ陛下が生まれた年はアレクサンなんたらさんがたくさんいる。アーサー様のお兄様のアークライト家現当主様もアレクサンダーさんだ。青騎士団にはアレクサンジェロさんが三十人いるっていうし。
姫さまが生まれた年も、陛下の時とは比べ物にならないくらい少ないけど、ベアトリスと名付けられた子がちらほらいた。ほら、あたしの先輩侍女の一人、エリン様いたでしょ? エリン様のフルネームは、ベアトリス・エリン・グレイヴズ。そう、量産ベアトリスちゃんの一人だ。姫さまにお仕えしてからミドルネームで呼ばれるようになったそうだ。
同じ名前がたくさんいるから、バイオレット王族は代々ミドルネームをつけてる。だって、人前で名前を呼ぼうものなら、呼ばれた人以外の人も振り向いちゃうからね。姫さまとエリン様が一緒にいる時に「ベアトリス様ー!」って呼んだらきっと同時に反応する。
そんな訳で親友のお二人は、姫さまをティナって呼ぶようになった。うちの国の従者の人達や騎士様達が「姫さま」って呼ぶのも同じ理由。デニスさんをはじめとした他国の従者さんはさすがにファーストネームで呼ぶけど。
ごきょうだいのお二人? あのお二人はさすがにミドルネームでは呼ばないよ。姫さまの愛称の「ビー」って呼んでる。さすがにうちの王城にいる人たちは、陛下とジェレミー様のお声を忘れたりしないからね。お二人が呼べば声で分かるから、名前で呼んでも姫さま以外反応したりしないよ。
まとめると姫さまは、ご家族からは「ビー」、親友のお二人からは「ティナ」って呼ばれてます。
こうしてマイルズの王都チェノウェスから出発して予定通りに最寄りのマイルズ領領主様のお城にお泊り。
そして今は大街道を三度ひた走っている。
マイルズ王国は、この大陸の国で唯一海に面した国。
だからなのか、大街道を走っていると、旅行者と思しき人や冒険者らしき団体とちらほらすれ違う。
冒険者っていうのは、その名の通り世界各地を冒険する人達のこと。
この世界には、謎の遺跡や洞窟――通称、ダンジョンと呼ばれる場所がたくさん存在している。そういう場所に赴いて、遥か昔に滅びた種族や文明が残したお宝をゲットしたりしてるらしい。あと、お宝がある場所とかその道中には手強いモンスターがたくさんいるから、ピンキリだけど冒険者は大体モンスターと戦い慣れしてる。だから、モンスターを倒すこと自体を生業にしてる冒険者もいる。モンスターから採れる素材にも、貴重で高値で売れるもあるからね。自警団や国の騎士団が間に合わずモンスターに襲われた村を助けたりして、冒険者って結構ありがたい存在でもある。辺鄙な場所にある村の宿屋とか商店とかも、近くに古い洞窟の一つもあれば冒険者が来て泊ってくれたりお店を利用してくれたりとかね。ただまぁ、中には困った冒険者もいるんだけど。
この大陸は前人未踏のダンジョンがたくさんあって冒険者人気も高いんだけど、他の大陸出身の冒険者が入れるのはこのマイルズ国まで。なんせこのフロタウス大陸は九百年前に魔王が拠点にしてた影響で、他の大陸とは比較にならない強力なモンスターがゴロゴロいる。バートランドなんて魔王の居城があった場所だからね。そう、グロウウィン城。あれはその昔魔王が倒された後、時間をかけて人が住めるように改造された、元魔王城なんだ。それでなんか、まだバートランドには強すぎるモンスターがたくさんいるんだって。
ようするに、他の大陸とモンスターのランクが違いすぎるから、そこから来た人達にはまずテストを受けさせて、合格したら、まだ友好性モンスターが多くてランクが低いマイルズまで入国可にしてる。それでも、自信過剰で大分背伸びした冒険者達がモンスターに全滅させられてしまったり、大怪我をしてマイルズの騎士団に助けられたりといった事が多い。
それでもこのマイルズに来る冒険者が後を絶たないのは、冒険のロマンがそうさせるんだろうな。ちょっと分かる。