跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「お、遅くなりまして、すみません」

なんとか謝罪の言葉を口にした後に、彼に促されて向かいの席に腰を下ろす。

ここからどうすればよいのかと戸惑っていると、相手の方が先に口を開いた。

「はじめまして」

父よりも幾分か低くて、耳心地のよい落ち着いた声だ。

「は、はじめまして。加藤愛佳と申します」

「ああ。とりあえず、お互いの自己紹介をしましょうか。どこまでお聞きになられているかはわかりませんが……及川不動産の社長を務めている、及川千秋(ちあき)と申します」

鋭い視線とは裏腹な丁寧な口調に、案外優しい人なのかもしれないと想像する。

「年は三十五歳。愛佳さんより、ずいぶん上のおじさんになってしまうかな」

初対面から下の名で呼ぶのかとドキリとしたが、強がって気にしないふりを通す。

彼は自身の発言に苦笑してみせたが、なんだか計算されつくした演技のように思えてならない。なぜなら、その視線から自身の年齢を少しも卑下していないと伝わってくるから。

年齢以上の風格は感じるが、彼の容姿は年相応だ。それどころか、苦笑とはいえひとたび表情を緩めれば、実年齢よりも若干下ではないかと見える。

「い、いいえ。私は二十四歳ですけど、あなたをおじさんだなんてまったく感じません」

とくに気を遣ったわけではない。否定するように手を振りながら返すと、千秋さんは目を細めて微笑んだ。

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