跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「菊乃さんの昔話がなかったら、成り立たなかった結婚だわ。ずいぶん運がよかったわね」

たしかにその通りなのだから仕方がないけれど、運がよかったなどと言われて、ズキリと胸が痛む。

「菊乃さんを、知ってるんですか?」

菊乃さんについては、元社長夫人なのだから知っているのも当然かもしれない。
ただ、どうして岸本さんがそんな事情まで知っているのか。

「当然よ。頻繁に社長の元にいらっしゃるし、私も会えばお話しさせてもらうわ」

社交性の高い菊乃さんだから、出くわした社員と話をするのも想像できる。それでも、私の祖母との話まで聞かせるものなのか。

「昔話、って……」

「ああ。それは前に社長が話してくれたのよ。まだ結婚するつもりなんてないのに、菊乃さんがしつこいっていつも嘆いていたわ」

「結婚するつもりは、ない?」

それならどうして、千秋さんはあの場で私との結婚を決めたのか。

「そうよ。まだ仕事に集中していたいって、うんざりしてたのよ」

岸本さんの言葉に、心を抉られる。彼女の選ぶ単語の一つひとつが、なんだか刺々しい。彼女にいっさい悪びれる様子がないのは、世間話ぐらいにしか思っていないからか。

千秋さんはそんのプライベートな話を、社員である岸本さんに聞かせてしまえるのかと、ふたりの関係の近さも気になるところだ。

「本当に、運がよかったわね」

私の結婚は運だけで決まったのだと彼女は決めつけているようで、再び繰り返された言葉にますます胸が痛み出す。

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