跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
たしかに、祖母と菊乃さんの出会いは偶然だったかもしれない。でも私たちの結婚は、決してそれだけではないはずだと信じたい。

けれど、本当にそうなのかと、自信のない私が顔を出す。
初めて顔を合わせたあの日、千秋さんはどんな表情だったか。結婚なんて大事をその場の勢いだけで決めるような人ではないとわかっているが、それでも後に不本意だったと後悔していたかもしれない。

あのとき、千秋さんは結婚の話を進めると言いながら、最終的にどうするのかは私に決めさせた。私としてはもはや反論できないと受け入れたが、本当は断って欲しかったのだろうか。

仕事に対してあれこれ話していたのは建前にすぎず、本音は菊乃さんへの家族愛だけで結婚を決めてしまった可能性もある。祖母である菊乃さんが私との結婚を望んだから、千秋さんはそれに従っただけなのかもしれない。
なんだかんだと菊乃さんを邪険にしている千秋さんだけど、本心では常に気にかけて大事に思っているのを知っているだけに、その疑惑を否定できない。

私を抱くのも、もともとは菊乃さんにひ孫を抱かせてあげたいからというのが発端だ。それに、結婚してしまった以上は安易にほかの女性と関係を持つわけにもいかない。しょうがないから私を抱いているのかと、虚しさに涙が滲みそうになってくる。

もし千秋さんに、私に対する特別な感情なんてほんの少しもなかったとしたら? 
嫌われてはいないと思っていたが、彼にとって経験のない年下を信じ込ませるぐらい容易いだろう。それぐらいの演技はできてしまうのかもしれない。

私の存在は、千秋さんにとって迷惑になっているのだろうか。
 
岸本さんの言葉に心を支配されて、思考は悪い方ばかりへ流されていく。

その後はまるで仕事が身に入らず、定時になるとそそくさと職場を後にした。

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