跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
その晩、千秋さんと食卓を囲みながら、散々迷ったが岸本さんについて尋ねてみることにした。

「千秋さん、うちに来てくれている岸本さんだけど……」

「ああ。岸本は優秀な社員だ。彼女に任せておけば、問題なく進めてくれるだろう」

具体的になにかを問いかけるより先に、彼女に対する千秋さんの絶対的な信頼の言葉を聞かされて、その後が続かなくなる。

「どうかしたか?」

「いえ……すごい人だなあって」

取り繕うように彼女を褒める言葉を口にすると、千秋さんは満足げにうなずいた。

「彼女が入社した当時は、俺もまだ一般社員として働いていた。ちょうど同じ課に配属されて、俺が教育係をしていたんだ。失敗しても、きつく言われてもめげずに食らいついてくるやつで、当時から会社の戦力になる人材だと感じていた」

笑みを浮かべながら「その通りになった」と話す千秋さんに、胸が苦しくなる。
恩を受けるばかりで大してお返しのできない私と、会社に貢献している岸本さんとではまるで違う。千秋さんにとって価値のある岸本さんとそうでない自分を明確にされたようで、辛くなってくる。

「愛佳?」

千秋さんの方を見られない。私から話を振ったとはいえ、彼が今心に描いていたのが仕事ができて美人な岸本さんだと想像すると、醜い嫉妬心が顔を出しそうになる。お願いだから、ほかの女性なんて見ないで欲しい。

私だけを見ていて欲しいと願う自身に気づいて、ハッとした。

加藤製陶の再建のためだと、私は自分の感情ではなく会社を優先して彼との結婚を選んだ。
意地悪な千秋さんだけど、嫌だとか受けつけられないとかはいっさいなくて、なんだかんだ言いながらも彼との生活が心地よくなっている。いつの間にか、彼の元が私の帰る場所になっていた。

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