跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
同じ時間を過ごしていけば、恋愛感情とは言えなくとも友情のような好意を抱けるだろうと、半ば願うような気持ちで嫁いできた。なんの情もない夫婦なんて、寂しすぎるから。

それが、千秋さんがほかの女性を思い浮かべる様を目の当たりにして、そんなのは嫌だと心が拒否する。それを受け入れられない自分に気がついてしまった。

それは、つまり……私は千秋さんを好きなのだろうか。

目線を上げると、なにかを探るようにこちらを見つめる千秋さんがいた。
彼のなにもかもすべてを見透かすような鋭い視線が、私ではない女性を捉えるなんて嫌だ。低くて心地よい声が、自分以外の女性の名を愛おしげに呼ぶなんて耐えられない。あの大きな手が、ほかの女性に触れるなんて……。
そこまで考えて、やっとひとつの答えにたどり着く。
 
私は千秋さんが好きなのだ。それも、ひとり占めしたいぐらいに。

それが、すとんと自分の中に落ちた。
いつからとか、どんなところがと聞かれても答えられそうにない。とにかく今目の前にいる彼に、自分は恋をしているのだと自覚した。

「愛佳、どうかしたのか?」

もし彼が私と結婚していなかったら、岸本さんと一緒になっている未来だってあっただろうか。ふたりの関係性に嫉妬して、あらぬ考えを抱いてしまう。

彼女だって千秋さんを女性の理想そのものだと評していたし、千秋さんの方も岸本さんを高く買っている。それに、こうしてそれぞれから話を聞いていれば、互いの間に確固たる信頼関係が成り立っているのも明白だ。

彼女に勝てるものを、私はひとつでも持っているだろうか。

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