跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました～年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛～

同じタイミングで、加藤製陶からもひと昔前に一世を風靡したタンブラーの再販を予告した。それが及川のマンションと併せてメディアに取り上げてもらえ、いくつかの問い合わせが入っている。

その後、満を持してタンブラーのインターネット予約を開始すると、一部の商品は二日ほどで予定数に達するという想定以上の事態になった。ほかのデザインも残りあとわずかで、売り切れるのも時間の問題だろう。ひとまず、名前を売るという目的は達成できたと言えそうだ。

「はい。思った以上の反応に、正直驚いています」

でも、ここで終わりじゃない。動き出しているコラボ企画以外に、これまで関りのなかった企業から企画の打診も受けており、滑り出しはこのうえなく順調だ。

「私もあのトルコブルーのタンブラーが気に入ったわ。加藤社長のご厚意で、社員枠で買わせてもらったのよ」

なにげない会話だったが、トルコブルーと聞いた途端に嫌な気持になってしまった。

一般向けの予約枠とは別にあらかじめ社員からの購入希望を募り、一足早く実物を手にしている。
私も千秋さんと話していた通り、粉引きとトルコブルーの二個を購入した。トルコブルーは、千秋さん専用だ。おそろいのタンブラーがいかにも夫婦らしくて、わざわざ外から見えるように戸棚の前面に収納している。

千秋さんと同じものを岸本さんも手にするなんて嫌だと、醜い嫉妬心を抱いてしまった。
これからたくさんの人が購入するのだ。子どもじみた意地の悪い感情を持つなんて、馬鹿らしいとわかっている。それなのに、後ろ向きな思いが止められない。

こんな私を千秋さんが知ったら、お前はいくつなんだと呆れられるに違いない。もしかして、あまりの子どもっぽさに愛想をつかされてしまうだろうか。