跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
横に避けてあった資料に、復刻版タンブラーの告知チラシを見つけた菊乃さんは、加藤ブランドが全国に一気に知られた当時の話をはじめた。

「――でね、あの頃は本当に人気が高くて、なかなか買えないって妙ちゃんに愚痴ったら、こっそり優遇してもらっちゃって……」

私の知らない祖母の話を聞かせてもらえるのが楽しくて、ついいつも長話になりがちだ。まだ話し足りないとなると、私が彼女の家を訪問したり電話をかけたりするときもある。

「――本当に、千秋と愛佳ちゃんが結婚してくれてよかったわ。愛佳ちゃんと一緒になって以来、千秋もなんだか丸くなったっていうかね。もういいこと尽くしよ」

話の内容は、私たち夫婦のことにまで及ぶ。
千秋さんが丸くなったかはよくわからないが、とにかく菊乃さんは私たちの結婚を誰よりも喜んでくれている。

ただ、彼女の話は時折自分を持ち上げられすぎているようで、なんだかそわそわしてくる。

それに、最近の私と千秋さんの関係は、円満だとは言い切れない。
 
「あとは、ひ孫ね。愛佳ちゃん、プレッシャーをかけるわけじゃないのよ。ただね、子どもはいいわよ。もう、本当にかわいくてね」

悪気のない言葉だとわかるから、これまでは平気で聞いていられた。彼女からは明言されていないが、及川としても後継ぎが必要なのは当然の話だ。単にかわいがりたいから望んでいるだけでもないと、さすがに理解している。

よほど機嫌がよかったようで、菊乃さんの喋りは止まらない。岸本さんの存在を忘れているのか、私たち夫婦の話ばかりになっていく。

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