跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「伴侶を選ぶにはね、総合的に考えてって話をしたけど……」

つま先から頭の先までじっとりと私を見た岸本さんは、彼女に比べれば幾分か見劣りのする胸のあたりで視線をとめた。

「夜の相性も、重要なポイントなのかもしれないわね」

余裕たっぷりの微笑みが、「あなたでは満足させらない」と宣告してくる。反論なんてできそうになくて、奥歯をぐっと噛みしめて震え出した足をひたすら叱咤する。

「仕方なく結婚した相手に、体ですら満足させてもらえないなんて、男としたら拷問でしょうね。不満を募らせて下手に浮気でもして訴えられたら、社会的に終わりよ。はあ……千秋もかわいそうね」

千秋さんは、私のせいで苦しんでいるのだろうか。さっさと別れてあげたらと、彼女の視線が訴えてくるようだ。

「まあ、彼ならばれるようなへまはしないでしょうけど……」

私が気づいていないだけで、現在進行形で浮気されている可能性があると言いたいのか。

意味深な流し目を受けとめきれなくて、ついには視線を逸らした。彼女に対して負けを認めた気分だ。

「あら、時間だわ。それじゃあ、午後からも頑張りましょうね」

衝撃から立ち直れずにいる私に、打って変わって感じのよい声でそう告げた岸本さんは、足取り軽く部屋を出ていった。

ひと言も反論できなかった。悔しいが、返せる内容が私にはなかった。

彼女の前では堪えていた涙が、ひとりになった途端に滲み出す。
こんな情けない姿を周りに見せるわけにはいかないと、入り口に背を向ける。

瞼をぐっと閉じて衝動をやり過ごすと、なんとか気持ちを立て直して午後の仕事にとりかかった。

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