跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
岸本さんにいろいろと言われた以降も、いつも通りを心掛けながら必死で日々を過ごしていた。

でも、ふとした瞬間に彼女の言葉がよみがえり、いろいろと考え込んでしまう。
千秋さんは、私との結婚を後悔しているのだろうか。いろいろとしてもらうばかりの私など、彼にしたら足手まといでしかない。あの人の隣にふさわしいのは、役に立てる女性であるべきだ。

岸本さんなら、仕事面でも私生活でも千秋さんを満足させてあげられる。彼女のあの強気な発言は、妻である私に堂々とそう宣言したようなものだ。

私ではだめなのだ。
私は、千秋さんにふさわしくない。

いったん走り出してしまったマイナスな思考は、まるで坂道を下り落ちていく雪玉のようにどんどん大きくなっていく。

このまま婚姻生活を継続させて千秋さんを縛りつけてしまっては、絶対に彼のためにならない。千秋さんが本当に必要としている女性と一緒になるためには、私が彼の元を去るしかない。

あの人のことだから、ひとつぐらいバツがついたとしても引く手数多に変わりないだろう。私によくしてくれた菊乃さんは残念がってくれるかもしれないが、それも一時の話だ。人は自分が考えるよりも早く立ち直るものだから。

それに……。
彼の近くには岸本さんがいるのだし、案外早くにひ孫に会えるかもしれない。そうなれば、私の存在など忘れて菊乃さんも幸せになれるはず。

不純な動機とはいえ、あれほど子どもがいたらと何度も考えていたのに、今となっては子どもがいないのは幸いだったのかもしれない。身軽なうちに離婚をするのがいいだろう。

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