跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
それでも、ここで素直に引けるほど私は大人になれておらず、きっと言い負かされるとわかっていてもつい言葉を重ねてしまう。

「そうだとしても、まだなにか、絶対に打開策はあるはず。私だってデザイナーの端くれで……」

「新人がベテランデザイナーを出し抜いて、起死回生となる商品を提案できる可能性はどれぐらいあるのだろうなあ」

「ゼロではないが」と意地悪に言われても、もっともすぎて睨む気力すら削がれてしまった。

「で、でも……」

次第に言葉数が少なくなっていく私を、千秋さんはまるで獲物を追い詰めるように鋭い視線で射抜いてくる。

「余力があるときなら、いくらでもチャレンジすればいい。だが、瀕死の状態でそんな博打のような策をとっても、倒れるときの傷は深くなるばかりだぞ。取り返しがつかなくなる」

「……」

十分な経験値に裏付けられた重い言葉に、理想ばかりだった自分が急に恥ずかしくなってくる。私にまっすぐ向けられた彼の視線を受けとめられなくなって、唇をぎゅっと噛みしめてうつむいた。

「だが、その心意気は褒めてやってもいい」

「え?」

こういうのを飴と鞭というのだろうか。
不意に発せられた褒め言葉につられて顔を上げれば、千秋さんはニヤリと意地の悪い顔をして私を見た。すべての反論を封じられたこの状態は、まるで蛇に睨まれた蛙になった気分だ。


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