跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
それに、彼の中でこの話はもはや決定事項になっているようだが、加藤製陶の社長である父を差し置いて、私ひとりでは決められない。

「うちの持ち出しの方が圧倒的に多い分は……」
 
状況を把握しきれない私をよそに、勿体つけて言葉を止めた千秋さんは、目を細めて私の全身をじっとりと見てきた。まるで品定めでもするようなその執拗な視線に、羞恥心を煽られる。

「うちのばあさんは、とにかくひ孫を早くと欲している」

「なっ!?」

ズバリ言われた言葉に、瞬時に真っ赤になる。
つまり、子どもをもうけるのも条件のうちと言いたいのか。

「当然だろ。まあ、そのあたりはおいおい、な」

再び色気を纏った千秋さんに慄く自身の体を、両腕を回して抱きしめる。
きっとこの人は女性経験も豊富なのだろうと、その立場や容姿のよさはもとより、余裕綽々な様子からもうかがえる。

「おいおい」だなんていかにも猶予があるような口ぶりだが、菊乃さんの年代を考えれば失礼ながらゆっくりしていられないだろと、すでに祖父母を亡くしているだけにわかってしまう。

これ以上この話題に触れるのは、経験のない小娘には無理だ。なんとか意識を逸らせようと、方向違いの悪あがきを試みる。

「もし私が、家事もまともにできないような怠惰な人間だとしたら、どうします?」

このまま早まって結婚を決めて、いざ一緒に暮らしてみたらとてもじゃないけれど受け入れがたい性格だと判明したらどうするのか。もしくは、壊滅的に家事ができなかったとしたら?

そこのところを千秋さんにはぜひとも熟考してもらいたいが、そのときはさっさと離婚すればいいとでも割り切っている可能性も否定できない。

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