跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「そこに及川も目をつけました。手はじめに、弊社で提案している高級マンションにタイルを使用したいと考えています」

説明を聞きながら、想像を膨らませていく。提示された資料のような色とりどりの無地のタイルもいいが、北欧調などの柄物も使えそうだ。それから小さな子どもを意識して、動物の足跡を点々と描いてもかわいくて好まれるかもしれない。

「キッチンや水回りだけでなく玄関や外壁と、タイルの使用が広がりつつあります。よって、今後もその需要は伸びていくでしょう。及川のマンションには、無地ではなくて柄物のタイルの使用を考えています。加藤ブランドの名を出し、さらにデザインにこだわれば少なからず注目が集まるはずです」

客にとって、入口はマンションの購入かもしれないが、それが加藤ブランドを知るきっかけにつながる。購入を検討する世代は様々だというし、うまくいけば若い人たちにも興味を持ってもらえるかもしれない。

オリエンタルなものや和柄もおもしろいだろうと、さらに想像が広がっていく。加えて、形の工夫もある。正方形だけでなく、多角形や丸みを帯びたものも斬新だ。
頭の中でどんどん案が膨らんでいくのが楽しくて、自分の世界に入り込んでいたところ、千秋さんの声でハッと我に返る。

「ところで、この銘々皿はずいぶんと繊細な色遣いですね」

彼が興味深そうに眺めているのは、私がこだわって用意したものだ。それだけに目を向けてくれたことが嬉しくて、思わず声を上げる。

「そうなんです! 最近出たばかりの商品で、新橋色って言うんですよ」

興奮しながら話す私を、千秋さんが目を細めて見てくる。隣の父は途端に慌てて大人しくするようにと諫めようとしたが、千秋さんの様子に伸ばしかけた腕を引いた。

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