跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「――それで、私の方も一度、岐阜の窯元を訪れるつもりです」
「へ?」
「なんだ、愛佳? 問題でもあるのか」
呆けた声を出した私を、千秋さんがじろりと見てくる。
「い、いいえ。でも、まさか千秋さんが自ら岐阜まで足を運ぶなんて思ってなくて」
「現場を見ないままでは話しは進まない。机上の空論で進めて、失敗するわけにもいかないからな」
たしかに、加藤製陶の商品はすべて岐阜で製造している。今後主軸のひとつとなるタイルの製造ラインはどれほど確保できるのか、過去の資料や東京にいる人の話を聞くだけでは、実情と乖離しているかもしれない。直接、窯元を仕切っている人に聞くのが確実だ。
でもそれは、なにも現地に行かずとも電話でだって可能だ。窯元も一か所ではないため、日帰りで回るのは厳しい。果たして社長である千秋さんに、そこまで時間がとれるのだろうか。
「大丈夫ですよ、愛佳さん」
私の疑問を察したのか、志藤さんが声をかけてきた。
「社長には今月中は身を粉にして働いてもらって、七月の半ばまでに岐阜へ行く時間を確保させますから」
にこやかな表情とは裏腹に、彼から飛び出した言葉は若干物騒で、このふたりが正反対なのは見かけだけだと悟った。
いかにも過酷に聞こえる状況を、大丈夫と言ってよいのだろうか。隣の千秋さんは一瞬眉間にしわを寄せたが、小さく息を吐くと元の表情に戻った。
「ああ。時間はなんとでもなる。加藤社長、その際は愛佳を案内役に帯同させたいのですが、問題ありませんね?」
気を取り直したように千秋さんが父に尋ねるが、それは許可を取るというよりは決定事項だと告げられたのも同然な口ぶりだ。父が若干うろたえている。
「え、ええ。うちの方は大丈夫です。愛佳なら幼い頃から長期休みのたびに岐阜へ行って、親せきの家に長く滞在していたので、案内も問題ないはずです」
父の返答に、千秋さんが満足そうにうなずく。
「それでは、本日はこの辺りで」
ふたりの岐阜入りが決まり、いよいよ本格的に動き出すのだと期待に胸を膨らませた。
「へ?」
「なんだ、愛佳? 問題でもあるのか」
呆けた声を出した私を、千秋さんがじろりと見てくる。
「い、いいえ。でも、まさか千秋さんが自ら岐阜まで足を運ぶなんて思ってなくて」
「現場を見ないままでは話しは進まない。机上の空論で進めて、失敗するわけにもいかないからな」
たしかに、加藤製陶の商品はすべて岐阜で製造している。今後主軸のひとつとなるタイルの製造ラインはどれほど確保できるのか、過去の資料や東京にいる人の話を聞くだけでは、実情と乖離しているかもしれない。直接、窯元を仕切っている人に聞くのが確実だ。
でもそれは、なにも現地に行かずとも電話でだって可能だ。窯元も一か所ではないため、日帰りで回るのは厳しい。果たして社長である千秋さんに、そこまで時間がとれるのだろうか。
「大丈夫ですよ、愛佳さん」
私の疑問を察したのか、志藤さんが声をかけてきた。
「社長には今月中は身を粉にして働いてもらって、七月の半ばまでに岐阜へ行く時間を確保させますから」
にこやかな表情とは裏腹に、彼から飛び出した言葉は若干物騒で、このふたりが正反対なのは見かけだけだと悟った。
いかにも過酷に聞こえる状況を、大丈夫と言ってよいのだろうか。隣の千秋さんは一瞬眉間にしわを寄せたが、小さく息を吐くと元の表情に戻った。
「ああ。時間はなんとでもなる。加藤社長、その際は愛佳を案内役に帯同させたいのですが、問題ありませんね?」
気を取り直したように千秋さんが父に尋ねるが、それは許可を取るというよりは決定事項だと告げられたのも同然な口ぶりだ。父が若干うろたえている。
「え、ええ。うちの方は大丈夫です。愛佳なら幼い頃から長期休みのたびに岐阜へ行って、親せきの家に長く滞在していたので、案内も問題ないはずです」
父の返答に、千秋さんが満足そうにうなずく。
「それでは、本日はこの辺りで」
ふたりの岐阜入りが決まり、いよいよ本格的に動き出すのだと期待に胸を膨らませた。