跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「なんだ、愛佳。さっきから痛いほどの視線を感じるんだが」

不意打ちで窓越しに目が合い、ドキリと胸が跳ねた。

「い、いいえ、なんでも……」

「アイスでも買って欲しいのか?」

からかわれたとわかってむっとする。こういう反応も我慢できるようになりたいのに、なかなか堪えられない。

「違うから! 単にお仕事中の旦那様に見惚れていただけ……あっ」

考えなしにしゃべってしまう自分の口元を咄嗟に押さえたが、後の祭りだ。ニヤッとした千秋さんの表情が、すべて聞こえたと物語っている。

「そうか。俺に見惚れていたと」

「い、いや、そうじゃなくて」

まったくその通りの言葉を口にした覚えはあるが、肯定するのは恥ずかしすぎて無駄な抵抗を試みる。

必死に逃げようとするも、ここは新幹線内だ。窓側に座る私と通路側の千秋さん。物理的にも精神的にも追い込まれたようで、背中を冷や汗が伝う。

「相変わらず、かわいいやつだな」

容赦なくぐりぐりと頭をなでまわしてくる腕をどけようともがくが、私の力では敵いそうにない。

「ぼさぼさ……」

再びトンネルに入ったタイミングで窓に映し出された自分の姿に、盛大に嘆く羽目になった。

そんな私をくすりと笑った千秋さんが再びこちらへ腕を伸ばしてきたが、突然すぎて避ける暇もなかった。
ただ、決して意地悪をされたわけではない。雑な手つきではあったが、乱れた髪を直してくれた。

なんだか気恥ずかしくて、「仮にも私は妻なのだから、もう少し丁重に扱ってくれてもいいのに」と、照れ隠しに唇を尖らせる。

なんだかんだ言って、雑な扱いに慣れつつある自分がいる。窓の外に視線を向けながらあからさまにため息を吐いてみせたが、隣からはくくくと笑う声が聞こえただけだった。

< 49 / 174 >

この作品をシェア

pagetop