跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
大丈夫だと自信満々に宣言すると、疑う千秋さんを放って再び手を伸ばす。もちろん、引き戸の玄関は少しの抵抗もなく開いた。

「こんにちは!」

大きな声を出すと、しばらくしてパタパタと駆けてくる音が聞こえてきた。ひとりじゃない。たぶん叔父と叔母に、親戚と加藤製陶の従業員だろうか。訪問は事前に知らせてあるから、大勢集まっているのかもしれない。

「あら、愛佳ちゃん。よう来たねぇ」

先頭を切って出てきたのは、叔母だった。
父の弟夫婦の暮らすこの家は、遊びに来るたびに寝泊まりさせてもらっており、叔母とも気心の知れた親しい仲だ。

「お久しぶりです。わぁ、勢ぞろいだ」

よく見れば、近所の人までいる。その誰もが、私の半歩後ろに立つ千秋さんを凝視していた。

「あっ、こちら、私の旦那様になった及川千秋さんです」

「及川です。お世話になります」

この状況に驚いていないのか、千秋さんが卒なく挨拶をする。

田舎では、スーツをビシッと着ている人などそれほど見かけない。だから、物珍しいのだろう。おまけに千秋さんの風貌はなかなか迫力があるから、全員が呆然として見つめたままだ。

「あ、ああ。ずいぶんと立派な人やねぇ」

なんとか叔母がそう発すると、慌ててコクコクと首を振る面々がおもしろくて吹き出しそうになる。

「兄さんから聞いとるよ。結婚、おめでとう」

父にそっくりな菩薩顔の叔父がにこやかに言うと、やっと奇妙な緊張が解れていく。

「ありがとうございます」

そろって軽く頭を下げると、叔母がぽんっとひとつ手を叩いた。

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