跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「あっ、いけない。長旅で疲れとるでしょ? 狭いとこだけど、どうぞ上がってってね」

庭に面した和室に通された私たちの後を、ぞろぞろと全員が続く。
室内には、お正月の集まりのときのように大きな机が複数用意されており、その上には豪華なお寿司が並べられている。想定外の歓待ぶりに、面倒をかけてしまったのではないかと心苦しくなる。

「千秋さん、ものすごく歓迎されているようです」

隣に座った彼にボソッとささやくと、千秋さんは無言でひとつうなずいた。

予定では、今日はとりあえず叔父夫婦に挨拶だけして、明日の日程を確認したら予約しておいたホテルへ行くはずだった。お茶ぐらいは誘われるかと思っていたが、まさかここまで用意されているとは考えていなかった。

社運を握る人物を丁重にもてなしたいため、たくさんの人が集まってくれたのだろう。それ以外にも、私の夫となった人物を見たいという好奇心や結婚の祝いも込められていそうだ。

どちらにしてもその根底にあるのは、長時間かけてやってきたふたりを労わりたいという優しさだと、これまで無条件に迎えられてきた私は知っている。
さらに縁続きになった千秋さんとも、下心抜きで親しくなりたい。そんな純粋な気持ちを、集まった人たちのにこやかな笑みに見て取った。その心遣いは、きっと千秋さんにも伝わっているはず。

「いやあ。愛佳ちゃんが結婚するって聞いて、みんな驚いとったよ。しかも、うちの会社の手助けをしてくれるって」

「本当に、ありがたい話やねぇ」

女性陣が運んできたアルコールを飲みはじめた途端に、口々に話し出した。もう数十分もすれば、完全に宴会状態になっているだろう。焦って柱にかけられた古い時計に目をやった。


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