跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「そうだろ、そうだろ」

「ほかの男にとられる前に捕まえられて、本当によかったです」

澄ました顔でそう言ってのける千秋さんの膝を机の下で叩いたが、無視されてしまう。

「ははは。こりゃ仲がよさそうで羨ましい」

「嫁さんと仲良しが一番やからな」

千秋さんの惚気を聞いてさらに盛り上がっていく集団を前に、耐えられなくなってうつむいた。熱い頬を、こっそり手であおぐ。

私の反応を楽しんでいるに違いないと睨むように千秋さんを見上げたが、確実に目が合ったはずなのに、彼の口は止まらない。

「仕事熱心ですし、働いているのに家事もこなしてくれます。料理も絶品で。これほどできた嫁はなかなかいませんね」

さっきとは違ってわざわざ〝嫁〟と言ったのは、おそらくここにいる人たちの言葉に合わせたのだろう。集まった面々は、全員満足そうな顔をしている。

千秋さんはやっぱり意地悪だ。羞恥に悶える私を見て楽しんでいるに違いない。でも、ここで私がなにかを言えばさらに煽るだけだろうと、ひとりで耐え抜いた。


歓迎の宴は、明日の確認などそっちのけにしてしばらく続いた。大丈夫なのかと心配になってくるが、ここは時間に追われる東京都とは違うのだと思い直す。まあ、なんとかなるだろう。

やっとお開きになった頃には、すっかりみんな出来上がっていた。千秋さんも相当飲まされていたようだが、お酒に強いのか見たところいつもと変わらない。

「明日は、ホテルの方へ迎えに行くでな」

「よろしくお願いします」

叔父と千秋さんはすっかり打ち解けたようで、私の目の前で握手を交わしている。なにかと恥ずかしいばかりの時間だったが、ここの人たちと千秋さんをつなげられた成果を考えれば、決して無駄ではなかったはず。
 
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