跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
ひとりになって冷静さを取り戻すと、さっきの千秋さんとのやりとりに頭を垂れた。

もう少し一緒にいたいなんて、自分はどうしてしまったのかと胸元を押さえながら考える。もしかして、しばらく来ないうちにこの辺りもずいぶん様変わりしたことに対する寂しさからかと考えたけど、それもしっくりこない。

千秋さんにはたくさんからかわれてムッとするときもあるが、嫌いだとはまったく思わない。むしろ、彼と過ごす時間は好きだ。私がなにを言っても彼は大らかに受け止めてくれるし、ときにはさらにおもしろく返してくれる。

時折、そこに色気を漂わせてくるから恥ずかしくて反発もするが、それだって本当は冗談だと知っている。だから、私も本気で怒っているわけじゃない。

千秋さんは、私と過ごす時間をどう感じているのだろうか。自分より何枚も上手の彼の本心なんて読み解けそうになくて、すごくもどかしい。

考えても答えは出てこない。あきらめて、素早く入浴を済ませるとベッドに潜り込んだ。


翌朝は、迎えに来た叔父の車に同乗して、数軒ある加藤の窯元へ向かった。

目的地に着いて挨拶を済ませると、時間がないから申し訳ないと言いつつ、千秋さんは責任者をはじめとする従業員らに次々と質問をしていく。

正社員とパートの人数や、職場環境について改善してほしいことなど、まずは答えやすい質問からはじまり、最後には「この地域にはたくさん窯があるが、加藤の強みと言えば?」と、じっくり考える必要がある問いかけに変わる。

千秋さんも詳細は資料で知っているはずだが、現場の人に直接聞きたいと言っていた通り、自らの足で回って見極めていく。


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