跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「なんでも、菊乃さんが昔病を患われてねえ。療養に岐阜の温泉地で過ごしていたときに、旅行で来ていたうちのおばあさんと出会ったらしいんだよ。ふたりともすぐさま意気投合して、自宅にまで招待したほどだったと、亡くなったおばあさんが話していたのを覚えてるよ」
懐かしげに目を細めながら語る父を、どこか冷めた視線で見つめる。説明はいいから結論をと急かしたいのをぐっと堪えた。
「うちが東京に出てきたときに、おばあさんと菊乃さんが再会してね。盛り上がっているうちに、子どもの代はもう無理だけど、孫の代でぜひ結婚させて縁続きになろうと約束したのがきっかけだって聞いている。おばあさんが他界してすっかり忘れられていた話だったけど、うちの窮状を知った菊乃さんがぜひ手助けをさせて欲しいって申し出てくれたんだよ」
軽はずみすぎる。いくら仲が良くなったからといって、孫の人生や会社の今後を左右しかねない縁談をそんなふうに約束するなんてあり得ない。それを、及川の社長夫人だった菊乃さんが一緒になって賛成するなんて……。
なにより当事者の意思はどこにあるのかと、ご婦人ふたりに言い募りたくなる。
及川からのありがたい申し出に、もう後がないとあきらめかけていた父が嬉々として飛びついたのだと想像に容易い。一人娘が犠牲になるというのに、この人はそれをどう感じているのか。
「で?」
見えてきた筋書きを想像すると、ため息を吐きそうになる。嬉しそうな顔をしてしゃべっている父を胡乱げに見ながら、少々乱暴に続きを促した。
「ついでに、当時約束していた、孫同士のお見合の話もどうかと……」
ここまできて、ようやく私の不機嫌さに気がついたようだ。
父には、祖母同士の昔話が美談に聞こえていたのかもしれない。夢中になって語るあまり、明らかに娘の気持ちはそっちのけにしていたと、傍で観察していれば察せられる。
父にとってよいこと尽くしの話だったとしても、私にとっては違う。我に返った菩薩顔には、はっきりと〝まずい〟と書かれていた。
懐かしげに目を細めながら語る父を、どこか冷めた視線で見つめる。説明はいいから結論をと急かしたいのをぐっと堪えた。
「うちが東京に出てきたときに、おばあさんと菊乃さんが再会してね。盛り上がっているうちに、子どもの代はもう無理だけど、孫の代でぜひ結婚させて縁続きになろうと約束したのがきっかけだって聞いている。おばあさんが他界してすっかり忘れられていた話だったけど、うちの窮状を知った菊乃さんがぜひ手助けをさせて欲しいって申し出てくれたんだよ」
軽はずみすぎる。いくら仲が良くなったからといって、孫の人生や会社の今後を左右しかねない縁談をそんなふうに約束するなんてあり得ない。それを、及川の社長夫人だった菊乃さんが一緒になって賛成するなんて……。
なにより当事者の意思はどこにあるのかと、ご婦人ふたりに言い募りたくなる。
及川からのありがたい申し出に、もう後がないとあきらめかけていた父が嬉々として飛びついたのだと想像に容易い。一人娘が犠牲になるというのに、この人はそれをどう感じているのか。
「で?」
見えてきた筋書きを想像すると、ため息を吐きそうになる。嬉しそうな顔をしてしゃべっている父を胡乱げに見ながら、少々乱暴に続きを促した。
「ついでに、当時約束していた、孫同士のお見合の話もどうかと……」
ここまできて、ようやく私の不機嫌さに気がついたようだ。
父には、祖母同士の昔話が美談に聞こえていたのかもしれない。夢中になって語るあまり、明らかに娘の気持ちはそっちのけにしていたと、傍で観察していれば察せられる。
父にとってよいこと尽くしの話だったとしても、私にとっては違う。我に返った菩薩顔には、はっきりと〝まずい〟と書かれていた。