跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
翌朝、ホテルをチェックアウトするとタクシーで名古屋駅へ向かった。

「はあ……またしばらく、岐阜とはさよならか」

新幹線の到着を待つ間に、思わず嘆きの声が漏れる。
便利でにぎやかな東京もいいけれど、ゆったりと時間が過ぎていく田舎も私のお気に入りで、離れるのは寂しい。

「それなら、愛佳だけおいていこうか?」

ひとりでしんみりしていると、隣からなんとも意地悪な声で言われてジロリと睨む。

「それはだめです。これからが忙しくなるんだから」

小さい頃のように、もう一泊したいと伸ばすなんてあり得ない。

「まあそうだな。俺としても、かわいい愛佳がマンションにいないのは、ちょっと寂しいかな」

「へ?」

かわいいとか寂しいとか、突然言われて顔が熱くなってくる。

「ち、千秋さん?」

「ははは。顔が真っ赤だな」

そういうのは、気づいても見なかったふりをして欲しい。
頭を雑になでてくる手を振り払えないでいる私に、千秋さんの笑いも収まらない。ここでさらに睨みつけても効果なんてまったくないとわかっているのに、そうしてしまう自分は、彼の目にどう映っているのだろうか。

子どもっぽい私は、大人な彼に釣り合っていない。きっと隣り合って立っている今も、傍から見たら上司と部下にしか見えないだろう。

「言葉通りだ。俺の隣に愛佳がいるのは、もうすっかり馴染んでいるからな。いないとそれなりに物足りない」

そのままそっと髪に口づけてくる千秋さんに、目を見開いて固まった。

「ほら、来たぞ」
 
おもちゃにされているのだろうか。
悔しいのか恥ずかしいのか、自分でもよくわからない感情のまま新幹線に乗り込むと、しばらくの間そっぽを向いて無言で座り続けた。

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