跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「と、とにかく、会うだけでいいんだ。受けるかどうかは、愛佳次第でいいから」

「話はわかったわ。でも、それだとうちは助けてもらうばかりで、あちらにはなんのメリットもないんじゃない?」

いくら祖母同士が親友だったとはいえ、そんな唐突に降ってわいたような話に、天下の及川不動産の社長が靡くとは思えない。及川の業績は右肩上がりのはずだし、うちの会社に求められるようなものなどありはしないだろう。

「ああ。それはね、及川不動産のマンションの内装に、タイルの使用を検討しているらしくてね。キッチンとか、水回りなんかに」

「タイル? あの古いデザインの?」

岐阜の親類が暮らす家の、改修前のお風呂やトイレを思い起こす。今時の住まいに使うようなデザインではない。オシャレさは皆無の代物を使うなんて、時代を逆行している。レトロブームとすら呼べないものだ。

「ちがう、ちがう。最近若い人の間で流行っている北欧調のデザインだとか、カラフルなものとかだよ。廃れ気味とはいえ名の知られた〝加藤ブランド〟のタイルとなれば、付加価値がつくだろうって話だよ」

なるほど。たしかに、最近は指の先ほどの小さくてカラフルなタイルを使って、コースターや写真立てを作るワークショップも人気がある。だから、以前よりもタイルの需要はあるのかもしれない。それに湿気に強いというタイルの性質を考えれば、水回りに使うのも納得できる。

「話はわかったわ。それで、私が断わってしまえばこの提案もなくなるのね?」

「まあ、タイルの話はそうだが。それとは別で、菊乃さんはうちの再建に協力したいと申し出てくれている」

そんなお人よしでいいのだろうかと思わなくもないが、断っても力を借りられるのならば会うぐらいしてもいいかと気持ちが傾く。結婚はともかく、今の窮状を助けてもらえるのは正直ありがたい話だ。もちろんその際は、後になんらかのお返しをするのが前提で。

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