跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「本当に、会うだけでもいいのよね?」

「ああ、もちろん」

そこだけは念を押して、渋々見合を受けると了承した。

「それで、何時にどこへ行けばいいの?」

ハッと時計を確認した父が、途端に慌てはじめる。なんともわかりやすいその様に、頬がぴくりと引きつった。

「も、もう十分もない。場所は、このホテルの最上階にある料亭の個室だよ」

「は?」

ということは、今すぐにでもエレベーターに乗り込まなければならない。援助してもらう側が後で入るなんて心証がよくないのに、まして遅刻なんて絶対に許されない。この時間なら、先方はもう到着している可能性が高い。

こういう詰めの甘さが、父の欠点だ。舌打ちしそうになるのをなんとか堪えて、気持ちを切り替える。

「急がないと。お父さん、行くわよ」

強引に父の腕を掴んだが、本人に制止されてしまった。時間がないというのに、見た目通りののんびりさを発揮する父がもどかしくて、「早く」と急かす。
けれど、焦る私に父は無情なひと言を発した。

「今回は当人同士でと、相手側から言われてるんだ」

「……」

「はあ!?」と思いっきり不満の声を上げそうになったが、それすら時間が惜しくて我慢した。
当人同士ということは、初対面の相手とふたりきりだというのか。

「お父さんはそこの喫茶店で待ってるから。愛佳、行っておいで」

この菩薩は、本当は鬼か悪魔なんじゃないか。うら若き娘を、よく知りもしない男性とふたりだけで会わせるなんて無責任すぎる。

いら立ちに任せて父を鋭く睨みつけたが、こちらの怒りに気づきもしないで、にこにこと手を振るのんきな菩薩顔に毒気を抜かれてしまえば、頭の中を飛び交っていた文句を言う気力は挫かれた。

無駄なやりとりに使う時間などないと、たくさんの言い分を呑み込んでエレベーターに乗り込んだ。

< 8 / 174 >

この作品をシェア

pagetop