跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
最上階で降りると、教えられた店の入口に駆け寄る。

「お連れ様はもういらしてますよ」

私の要件を聞いてにこやかにそう告げる店員だったが、なんだか苦言を呈されているように聞こえてしまう。入ってすぐのスペースにかけられていた時計は、今まさに約束の時間になろうとしているところだ。

「ごゆっくりどうぞ」

ふすまを開けて入室を促すと、店員は無情にも姿を消した。当然なのだが、ひとりにされるのは心細い。

「し、失礼します」

一歩足を踏み入れた瞬間に感じた張り詰めた空気に、途端に緊張が高まる。
勇気を振り絞ってゆっくりと視線を上げると、スーツをかっちりと着込んだ男性が座ったまま私を見据えていた。
 
なにかを見極めようとする鋭い視線にたじろいで、息を呑む。ただ、口角が上向いているところを見ると、遅い登場を怒っているわけではなさそうだとわずかに安堵した。

私より、どれぐらい年上だろうか? 落ち着いた様子には、貫禄すら感じる。
容姿は誰が見ても整っていると思うはず。筋の取った形のよい鼻に、魅惑的な薄い唇。若干鋭すぎる目元も、大企業の社長という彼の立場を考えれば武器になっていそうだ。それは少しもマイナスになっていない。

座っていても、身長がずいぶん高いとわかる。立ち上がれば、小柄な私など視界にすら入らないのではないか。

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