跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
岐阜へ行ってから一カ月ほど経った今日、加藤製陶へ及川からひとりの社員が派遣されてくる予定になっている。この案件は千秋さんの手を離れ、いよいよ大体的に動き出す。

「はじめまして。及川不動産の岸本里奈(きしもとりな)と申します」

やってきたのは女性社員だった。
ぐるりと辺りを見渡した岸本さんは、余裕たっぷりに魅惑的な笑みを浮かべてみせた。真っ赤に塗られた唇が印象的で、釘付けになってしまう。

三十歳ぐらいだろうか。目鼻立ちのはっきりした美人で、豊かな胸元を強調するようなカシュクールタイプのパンツスーツが、彼女の雰囲気によく似合っている。
全身から自信がみなぎる彼女の姿に、強い味方を得られたとますます前向きな気持ちになる。

「――こちらが、娘の愛佳です」

父が自らを紹介したのに続いて、横にいた私にも挨拶をするように促してきた。

「及川愛佳と申します。岸本さん、これからよろしくお願いします」

及川姓にははまだ慣れないが、名乗れることに誇らしさを感じている。

挨拶をする私に、岸本さんも笑みを返してくれた。けれど、その直前にほんの一瞬鋭い視線を感じたのは、私の見間違いだろうか。再び見つめたときにはすっかり表情が戻っていたらか、実際はどうだったのかはわからない。

当面の間、岸本さんは週に数日加藤製陶へ出勤する予定だ。業務の内容は、再建プログラムの円滑な遂行の手助けと見届け。とりあえずは及川のマンションに加藤のタイルを使用する案を進めるのだが、その際に両社の架け橋的な役割を担っている。

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