強面カイくんの、行き過ぎる溺愛
結局、一方的にまくし立てられ去っていった女性達。
結理はしばらく、その場に突っ立っていた。

「ただいま、ユウちゃーん!」

快李が帰ってすぐ、結理に抱きつく。
「おかえり」
「ユウちゃん可愛い~!」
とても機嫌の良い、快李。

「カイくん、どうしたの?ご機嫌だ」
「実はさ、また店を新しくオープンさせたんだけど、結構良い売り上げでうなぎ登りなんだ。
正直、半信半疑でオープンさせたから、嬉しくて……今回は、色沢(しきさわ)の口添えで、女性社員達と何度も会議を重ねたんだ」
色沢とは、快李と結理の大学の同期で、今は快李の秘書を勤めている。

「女性社員……」
(今日来た人達のことかな?)

「ユウちゃん?」
「え?」
「どうしたの?」

「ううん!そっか!良かったね!」
快李を見上げ、微笑み言った。

【私達はお疲れ様の意味でも受け取ってほしいんです】
昼間の彼女達の言葉が、結理の頭の中にフラッシュバックする。

「━━━━━だったら、受け取ってあげたらどう?」
そして結理は、不意に言う。

「え?何を?」
「明日、バレンタインでしょ?」
「バレンタイン?」
「女性社員の方達のチョコ」
「何の話?」
「確かにヤキモチ妬いちゃうけど、私は大丈夫だから。貰ってあげて?」

「いらない」

「え?」
「いらないよ、ユウちゃん以外からは」
「カイ…くん…」

「ユウちゃんの為じゃなくて、僕自身がいらないの!」
結理の頭をポンポンと撫で言った、快李。

「カイくん……」
「ユウちゃんはちょうだいね!待ってるから!」

(どうしていつも、カイくんはこんなに私を喜ばせてくれるの?
私はこんな、醜い嫉妬してるのに)
結理は涙が出そうになるのを、必死に堪えていた。

次の日のバレンタイン当日━━━━━
快李にプレゼントする、チョコを作っていると……

インターフォンが鳴った。

「はぁーい」
「宅急便です。乙坂 快李様にお届け物です」
「はい」
「ありがとうございました」

━━━━━━━━!!!!?
その差出人の名前に、結理は驚愕し思わず箱を落とした。

【女性社員一同】

(私からカイくんに渡せってこと?
カイくんが受け取らないから)

結理は、あっという間に目が潤み涙が溢れていた。

そんなにいけないことなのだろうか?

快李が受け取らないこと。
結理が受け取らないでと願うこと。

醜い嫉妬が顔を出す。
身体が震える。
涙が止まらない。

「あ、チョコ作らなきゃ!カイくん、楽しみにしてるし」
まだ震える手でチョコを溶かす。

(私はどうすればいいの?)

そんなモヤモヤしたままだったからか、手が滑り鍋をひっくり返す。
「きゃっ!熱っ……」
右手首を火傷してしまった。
「冷やさないと……痕になっちゃう…」

手首がかなり火傷したのに、痛みをあまり感じない。
そのくらい、結理の心は痛みでいっぱいだった。
< 14 / 31 >

この作品をシェア

pagetop