桜が咲く頃に、私は
始業のチャイムが鳴っても、休み時間のチャイムが鳴っても、私はそこから動かずに、青い空を見上げて流れる雲を目で追っていた。


こうやっていると、少しは気が紛れて泣かなくて済むから。


「こんなとこにいたのか。なんか、早春らしくないよね。天川とキスするところを見られて、広瀬とダメになりそうだからってメソメソ泣いてるなんてさ」


そんな私に声を掛けて来たのは……翠。


ここにいるのがわかるくらい、私は単純なのかな。


「私らしくって……何よ」


「昔のあんただったら、きっとこう言ってるよ。『は? 他のやつとキスしてて何が悪いんだよ。彼氏はお前だけなんだから別に私が何しようと良いだろ?』ってさ」


「……何それ、私最悪じゃない。そんなこと……言いそうだったの?」


本当にそんなことを言うかはわからないけど、翠は翠なりに必死に私を慰めようとしてくれるのがわかる。


「そうだよ。荒み切った最悪の人間が、愛を知ってようやく普通の人間と同じ心を持ったんだから、今更落ち込まなくていいでしょ。これ以上は私も見てらんないよ。それでも広瀬が好きだって言うなら、隠し事全部話しなよ」


私の隣に腰を下ろし、一緒になって空を見上げてくれた翠。


そうかもね。


広瀬と付き合った時にはなかったけど、その日に私に運命付られた死。


それを、一度も話さないなんて……上手く行くはずがないんだよね。
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