桜が咲く頃に、私は
「……でも、そんなこと出来ないよ。どんな結果を考えてもさ、広瀬が悲しむ結末しか見えないよ。だったら、このまま私のことを嫌いになってくれた方が……私が死んだ時、心の傷が小さく済むに決まってるよ」


仮に、一度死んで生き返ったことを話して、それを信じてくれたとしてさ、余命が尽きた時に広瀬は私の亡骸の前でどうなると思う?


いや、そうじゃないにしても、私が空とのキスの言い訳に、ありもしない作り話をしたって思ってしまったら。


さらに広瀬を傷付けることになるのは明白。


「僕以外の人とキスするのはやめてくれ」という当然の主張をされても、私はそれを守れない。


わかったと言いながら、隠れて空とキスをしなければならないのだから、また広瀬を裏切ることになる。


これ以上、広瀬を傷付けたくない。


「そう。そう決めたなら、それでいいんじゃね? 決めるのは私じゃなくて早春なんだから。残り何日なの? あんたが生きていられるのは」


「……109日。このままだと、私の誕生日が過ぎてちょっとしたら……死んじゃうね」


考えてみると、随分短くなったものだ。


最初は、桜が咲く頃に、私達は死ぬって思っていたのに。


もう、桜の花は見られないんだね。

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