桜が咲く頃に、私は
なんて都合の良いことを言っているんだろう。


これは誰の気持ちなんだろう。


私と空のキスを見た、広瀬がこう思ってると信じたいのかな。


私からの説明を待ってるってさ。


「だったら、本当のことを言えとでも言うのかよ。あの日、何があったか……全部言えるのかよ。お前は、広瀬にさ」


それを言われると答えに困ってしまう。


空にはそんなことを言っておいて、私は言えないなんて卑怯だよね。


でも、私はもうそれを伝える必要もないんだ。


話すらしてくれないのだから。


「もう、広瀬とは終わったよ。やっぱりダメだった」


小さく呟いた言葉に、空は返事をせずに吐息を漏らすだけだった。


「ま、まあまあ。玄関先でこんな話もなんだから、奥で話さね? 良いだろ天川」


言い終わるより早く、靴を脱いで奥の部屋へと移動する翠。


それに続いて私も家に上がり、花子に手招きをする。


「お、おい……何を勝手に!」


「勝手なのは今更でしょ。納得してもらえるまで話し合いなよ。花子と別れた時、空は自分の都合しか言ってなかったから納得してもらえなかったんだよ。多分ね」


人のことは冷静に見られるのに、自分のことは全然ダメだな。


まるで自分に言い聞かせてるみたいで、そうあってほしいという願望を口にしているみたいだ。
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