桜が咲く頃に、私は
「今になって落ち着いたから、納得は出来ないけど話くらいは聞けるようになったわよ。あの時聞かされてても、まあ信じなかったでしょうね」


確かに、実際かなり興奮してたし、空も吐き捨てるように話してたけど、それはきっと花子に諦めさせるためにそんな話し方だったのだろう。


「だけど、私は良いわ。所詮は他人だから。だけど家族にはもう伝えたのかしら? えっと、妹さんには」


「夢には……伝えないつもりだ」


「どうして? ある日突然あなたが死んで、あなたはそれで良いかもしれないけど、残された人はどうなるのよ。わけもわからず、大切な家族が死んだら……」


私も空も、あの日以来それをずっと考えている。


だけど答えが未だに出なくて、大きな迷路の中に入り込んだような感覚に陥っているんだ。


翠は私と空が死んだ場面に遭遇したから、最初から全部知っている特殊な関係。


このことを伝えている人自体、ほとんどいないのだ。


「夢には……俺が死ぬとか考えずに過ごしてほしい。俺も早春も、一度交通事故で死んでるんだ。ほんの少しだけそれが先送りになっただけなんだよ。何も、死ぬことを知る必要はない」
< 116 / 301 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop