桜が咲く頃に、私は
「済んだことは悔やまない。過去を悔やんじゃったら、私達が死んだことを悔やんでしまうよ。もう、変えられない過去なのに」


私にこんな制限さえなければ、キスを見られることもなかったし、広瀬とこの先もずっと笑い合えていたかもしれないのだから。


なんてね。


きっと、死んでなかったら、もっと早くに広瀬と別れていたかもしれない。


一度死んだから、色んなことに挑戦する気になれたわけで、死ぬ以前の私のままなら……とっくに広瀬を傷付けて別れていた可能性があるんだよね。


「今を大切に生きてほしい……か。まさかお前が夢にそんなことを言うとは思わなかったよ。出会った頃は自暴自棄でさ、初対面の俺に『泊めてくれ』なんて言い出して……」


「え、ちょっと待って? 私あの時、泊めてくれって言ったっけ? あんまり覚えてないけど、あの日は広瀬と付き合ったばかりだったから、そんなこと言ってないと思うんだけど」


私がそう言うと、空は首を傾げて小さく「あぁ」と呟いて。


「記憶が適当だな。なんかそんなイメージだったから。でも、そうだよな。今の早春は、いつの間にか俺達の家族みたいになっててさ、夢なんてあんなに懐いてるから。だから……考えてしまうこともあるんだ」


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