桜が咲く頃に、私は
私のことが……何もわからなかった……か。


広瀬のことは、私は知っているつもりでいた。


誰に対してでも優しくて、自分をいじめている人にだって手を差し伸べることが出来る底なしの優しさを持っている。


成績は上の下、運動は苦手で友達は少ない。


私のことが好きで……それで……。


知っているつもりでいたのに、出てくるのはたったそれだけだった。


「ちょっとあんたらさ、こんなところで大声出してんじゃないよ。もうね、学校中に聞こえるかってくらいの声だよ。まあ冗談だけど」


そう言って現れたのは翠……と、名前も知らない女子生徒?


「南山さん……と、友紀(ゆき)ちゃん!? な、なんで……」


驚いたように広瀬が声を出した。


「心配そうに覗いてたから、野次馬かと思ったけど。広瀬のお友達? なんでもいいけどさ、早春が言ってることは全部本当のことだよ。だって私、その時にいたもん」


友紀と呼ばれた大人しそうな女の子は、話がわからないといった様子で私達の顔を見回していた。


広瀬も、言葉を選んで友紀には決定的なことは言わないようにと。


「し、信じられないよ。まさか桜井さんがあの日にそんな……」
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